描くのが楽しい、夢中になって描く〜義務教育を終える今

 生徒たちに、義務教育を終える頃には、絵を描くのは楽しいって、思っていて欲しい。

 具体的に理想とする姿。

「絵を描いてみたい」と思ったときに、何の抵抗もなく気軽に絵を描きはじめる。うまいとか、へたとか、そんなことを気にしないで。話をするかのように絵を描く。描いてみて気に入らなければ、やっぱり絵はだめ、なんて思うのではなく、さっと手直ししながら描き進めていく。描いている瞬間が楽しいなと感じられるなら最高だ。

さて、義務教育の終えようとしている今、見て描く力はどの程度ついているのかを知っておきたいと思いました。私が、それを知るためには生徒に実際に書いてもらわなければなりません。それは、私の都合です。だから、生徒におつきあいさせるだけであってはならないと考えました。そこで1時間で完結する内容で、描く対象は生徒にとっても価値あるものでなければならないと考えました。

ですからこの授業の導入は「この世でもっとも大切なものを描きます。」からはじめました。


自画像に取り組みながら、自分と向きあう、真剣な時間、そんな空間になることを願って。


中学校3年生はこれから「卒業制作〜自分という人間の存在証明」に入ります。卒業制作では自分の主題に沿って表現方法も自分で決めます。今回、絵に描くものを自画像としたのは「卒業制作」の中で生徒自身が自分の姿を描くことも想定したからです。


完成しなくてよい、1時間だけの授業です。描くことに夢中になる授業なれば良いのです。

描くのが楽しい、夢中になって描く〜義務教育を終える今_b0068572_2331542.jpg





描くのが楽しい、夢中になって描く〜義務教育を終える今_b0068572_2352069.jpg

「自画像」を終えて、生徒に簡単に感想を書いてもらいました。とてもうれしかったのは「楽しかった」という言葉を半分以上の生徒が使っていたことです。さらに自分が描けるようになっていたという感想も多かったです。
 
授業中は真剣そのものでした。戸惑って描かないでいるような生徒はいませんでした。私は見守るだけです。生徒も私も手応えを感じた時間になっていました。
 
なお、今回の授業では、描く前に2分間だけ、瞼を描いてもらいました。時間があれば目全体もどうぞというスタンスです。しっかり目を描けることが大事なことではなくて、見て描く時の頭の中を活性化させる、感度を上げるということが目的であることを告げています。ウォーミングアップです。あとは指示なしです。

この記事で紹介した2枚の写真(画用紙のサイズは八つ切り)は一クラス全員(31人)です。これだけ描けて、さらに楽しく感じているならば十分と感じました。さらに学びたい生徒は高校以降で。

 今回、生徒たちがこのように描けた根拠は下の表にあるようなこと(北海道石狩造形教育連盟の研究〜山崎は研究責任者)を、いろいろな場面でくりかえし指導してきたことにあります。
 若いときの私であれば、例えば自画像なら具体的な形の捉え方の指導をしていました。具体的指導とは丁寧な感じもしますが、厳しく言えば、生徒自ら気づき、発見し、自分の力で解決していく面白さを奪い取ることにもなります。
 
 この生徒たちに使ってきた言葉で一番多かったのは「比べる」「バランスをとる」「使う」です。デッサンなどは「比べる」と「バランスをとる」という頭の使い方を説明してきました。自画像だからと言って特別な指導をしなくても良いように育ててきました。
 
描くのが楽しい、夢中になって描く〜義務教育を終える今_b0068572_07160761.jpg

この写真は石狩の「育みたい力」

表現=生きていくことの縮図

「 自分という人間の存在証明 」

(追記)2022年3月31日

この1時間の授業は私にとってものすごく大きな意味を持ちました。3年生最後の授業「自分の存在証明」で、唯一生徒に条件していた、小さくても自分の姿を入れるということも取り払ったのです。それ以降、卒業制作として、私にとっても生徒にとってもまさに義務教育最後の授業として重要な位置づけになりました。

なお、自画像は、1年生の時に取り組みます。主題ありきの自画像ではありません。描きながら主題を生み出していくスタイルです。もちろん最初に主題を持って描き始められる生徒は、そのように取り組みます。

(追記)2022年4月1日
絵心がないとか下手とかの判断基準は、写実的な表現が得意かどうかで捉えられていることが多いといって良いでしょう。ですから、義務教育を終えるまでには、そう思わないようにしておきたいと考えています。(ただし、写実的な表現力が最重要という意味ではありません。)この1時間の授業で手を止めたり、描くことをためらっている生徒はいませんでした。そのことが、とても大事です。どうすれば自分が高められるかを知っているからです。その証拠に、誰一人私を頼ろうとはしませんでした。私は、これでよしととらえました。

Commented by at 2008-12-10 22:20 x
生徒さんの一人ひとりの雰囲気が伝わってきました。単色ですが自分の色でデッサンしているところがまたいいですね。これは色鉛筆ですか。カラーボールペンのような感じもしますが。(だとしたら、すごいです!)
そして、「描くことを楽しませる」勉強になります。ついつい「描かせようと」あれこれ言ってしまうところ、これまでの子どもたちの学習の成果を信じている先生の姿勢が何ともいえないです。何より、「育みたい力」に書かれてあることがいかに効果的であるか実感できました。早速使わせて頂きます。
Commented by 出MAX at 2008-12-10 23:06 x
楽しかった。その連続が続くといいな。。。

みんな楽しかったはずだから、楽しいままでいてほしい。
Commented by yumemasa at 2008-12-11 00:54
辻さん、これ色鉛筆です。鉛筆を忘れた生徒がいて、たまたま色鉛筆を貸した所、他の生徒も色鉛筆で、という声があったのです。
この生徒たちは1年生のとき自画像を描いていますが、顔の特徴とか描く時のポイントだとかは一切指導していません。やったのは導入のときに「福笑い」をして、バランスについて、学習しています。
ですから授業で言う言葉はこの育みたい力です。自分で研究部をしていたので、ほとんどこれでやっています。
Commented by yumemasa at 2008-12-11 00:58
出MAXさん、これで苦しい部分や追求する部分も出てくるとまた、おもしろいし、楽しいです。
それにしてもこうも楽しいと言ってくくれるとは!
出MAXさんの記事にあった「粘土で人生を知った」って言葉もすおいですね!ブラボーです!
by yumemasa | 2008-12-09 23:52 | 美術の授業(山崎) | Comments(4)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明