(寄稿)「アートの現場から」鈴木斉 Vol.1
2011年 03月 03日
新聞(西多摩地域で発行されている「西の風」)掲載日 2010年9月16日
しろひげ Nature Art W.S
鈴木 斉
現在、瀬戸内海の7つの島を会場に「瀬戸内国際芸術祭」が開かれている。世界的な現代アーティストや日本の作家、大学の研究室が、様々な表現を通して島の集落に入り込み、地域の人々とともにアートによる地域再生を企てている。
私も8月の猛暑の中、3つの島を渡り歩いた。 この企画がなければ島外の人は一生訪れる事がないであろう、小さな島の集落の片隅に、歴史や風土、時間、暮らしといったテーマでコンセプチュアルに表現された作品が、人々を待ち受けている。作品はその地域のシンボルとなり、集落に新たな風を巻き起こしているのだ。
この企画の元となったものが、2000年から3年ごとに新潟県妻有地方で開かれている「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」。アート・ディレクターの北川フラム氏が、過疎と高齢化で悩む地域をアートで再生できないかと始めた一大プロジェクトである。西多摩に八王子を加えた広さに匹敵する広大な里山の自然の中に、365もの作品が点在している。
スタート当初は地域の賛同を得られず様々な困難にぶつかったが、回を重ねるにつれ、村の爺ちゃん、婆ちゃんがアーティストを迎え入れ、土地や家屋、生活の知恵の提供にとどまらず、協同の作品づくりにも発展してきている。何よりも地域のお年寄りに元気と生き甲斐が生まれる祭典となっているのだ。
アートと里山の人々との交流から生まれている地域再生の大きな動き。
アートには新たなエネルギーを生み出す栄養剤のような力があるようだ。このことは西多摩でもヒントに成り得るだろう。
いまアートは、限られた芸術家の表現世界の域を脱し、人々と地域を結ぶコミュニケーションの手段となり、現代社会の病巣をも癒やす、重要な位置を占めてきている。
このシリーズでは、様々な地域や美術教育の現場からの報告を通し、アートの持つ力を探りながら、西多摩に吹くアートの風についても話題にしていきたい。次回は妻有を歩く。
■プロフィール■
鈴木斉(すずきひとし)
八王子、日の出、福生、羽村の各中学校で美術科教諭として33年間勤務し今春退職。現在、「しろひげNature Art Work Shop」を主催し、学校や様々な地域で、造形教室や鑑賞活動など美術教育を外部からサポートする活動を行っている。あきる野市在住。