ステラ風の面白い作品?

この作品は大きな作品です。長い辺で1メートルはあるでしょうか。段ボールをもとにつくったステラ風の作品です。
わたしは「面白い作品だが、まあ目先の表現を変えて、楽しませたのだろうなあ、迫力があるし、ねらいは何だろう?」くらいに思っていました。
しかし、彼らの作品解説を読んで考え方は一変します。さらにC先生の発表があり、この授業のねらいが見えたのです。

ステラ風の面白い作品?_b0068572_17301288.jpgC先生は日常生活の中でいわゆる問題行動を起こす子ども達に対し、そのことを生徒の内面で起きている葛藤との現れとらえ、生徒と向き合います。指導の困難さを感じながらも。
 そして1年生では子どもの内面にある様々な感情を吐露させる「わたしの気持ち」に取り組みました。3年生では自分自身との葛藤を基軸にした「わたし」に取り組みました。ここに紹介した作品がそうです。

←生徒の感想「私は、この作品に、人の目ばかり気にして無理矢理自分を押さえ込んでいる、もう一人の自分が消えていなくなるように、自分の本当の気持ちを大切にしたいという願いを込めて作った。でも、それが伝わったかどうか」

ステラ風の面白い作品?_b0068572_1731651.jpg←生徒の感想「あえて「扉」を描いたのは中学生ゆえにこれから社会に出るから自分勝手に行動する訳にはいかないという思いから「扉」であった訳ですが人間誰しも表に出したい感情があるので、私の場合それが一般に悪いことでも、それをやると自分の別の面が見えるような気がする、それを更にA型な自分の思いが止めようとする、という中学生ならではの思いの繰り返しを描いてみたつもりです」

 ステラ風の面白い作品?_b0068572_17313169.jpg
生徒の感想「この作品には二人の人がいます。一人は私で、もう一人は私の周りにいてくれる人です。私は最初、一人の人がブラックホールみたいな闇に巻き込まれる感じにしようと思っていました。けれど、人は一人じゃ生きていけないと思って二人にしてみました。その人は友だち、先生、家族などです。場面場面でちがうと思います。悩んだりしている時、助けてくれたり、支えてくれたりしている人です。なので、二人が、求め合っている感じにしました。

★この作品はどの作品もこのように葛藤しつつも自分を客観視し前向きであろうとする子ども達の気持ちが表れています。しかし、なぜ、自己と向き合わせつつ前向きな表現になるのか、不思議でした。



レポートを読み、お話を伺い、少しだけ、わかりました。

レポートの中からC先生の言葉をいくつかピックアップしてみます。

*授業で大切にしている3要素
1、ハッ!  新鮮な視点で物事を見ることができた!   《意外性》
2、ホッ!  心が通い合うなごやかな空気が漂った!  《親近感》
3、スッ!  自分の力を出し切るよろこびを味わえた! 《成就感》

*1年生の授業「わたしの気持ち」の作品に添えてあった言葉
「気持ちが見える」〜絵に、そっと耳をすます。絵から、ふと声が聞こえてくる…。これが絵のステキ。絵のステキは、見えないものが見えることにある。ここに、この絵の気持ちが見える。

*3年生の「わたし」を制作途中で使ったプリント
事前にアイディアスケッチをしました。できあがったスケッチにC先生がコメントをつけて紹介しました。そして、この生徒作品を紹介するにあたり、 次のように書いています。 

 ここでは、「誰のやろ?」というより「どんな作品になるんやろ?」を楽しもう!
・「ページをめくっている手をつくる」〜私の明日が載っているページか?!いいな。
・「いつでも笑え=自分」〜「つらい時もくよくよするなー」か?「ドジな自分を笑い飛ばせ」か?
・「おこれ」と思う自分→いつも人前で気持ちをおさえているから。〜「よぉーし!その気持ちを作品にぶつけるのだ!」
そしてプリントの最後に
 さてと、このくらいにして、自分を見つめて、自分のテーマを決めよう!そして自分流の作品づくりをはじめていこう!それこそがアートなのだ!」

C先生の中に一貫して流れているもの、それはヒューマニズムではないでしょうか。あたたかいのです。その子その子の存在をまず肯定し、受け入れることから、はじめています。しかし授業の中には自己との対話をするような手だてが入っているのです。
 さらに新鮮な表現方法を提示し、子どもをひきつけています。アートという言葉にくすぐられるのでしょうか。
 このような考え方で構成しているからこそ、表現活動を通し、葛藤しながらも昇華していくそんな心の動きが見えるようです。この授業を見てどなたかが「カタルシス」という言葉を使っていました。

★話あいの意見の中に、作品より作文が勝っているのはおかしいという声もありましたが、子どもの作品は大人の芸術作品とは違い、全てを表現しきれるわけではないから、作文も重要ではないかということになりました。
ワイエスやゴッホも自分の作品について語っています。その語りを知って絵を見るとまた違った見え方がしてきます。
by yumemasa | 2005-01-14 17:32 | 子どもの表現 | Comments(0)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明