審議経過報告を読む(その3)

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以下の茶色い文字は「審議経過報告」から転載したものです。黒い文字は山崎のコメント。


1 教育課程をめぐる現状と課題

(3) 現行の学習指導要領下の学校教育の状況と検討課題

イ 子どもの心と体の状況


○ 子どもの学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動、規範意識や体力の低下など、教育をめぐる社会状況には深刻なものがある。

審議経過報告を読む(その3)_b0068572_323620.jpg○ 例えば、生活習慣については 「義務教育に関する意識調査」では、
1、平日の24時以降に就寝する割合は小学校第6学年で約1割、中学校第2学年で約5割、同第3学年で約6割。
2、毎日朝食を食べている子どもは学年が上がるにつれて低下し、小学校第4学年で約9割なのが、中学校第1学年で約8割、同第3学年で7割に低下。
3、休日にテレビやビデオ・ DVDを3時間以上視聴する子どもは小学生で約4割、中学生で約5割となっている。

○ 自分に自信がある子どもが国際的に見て少なく、学習や職業に対して無気力な子どもが増えている。また、人間関係をつくる力が十分でないとの指摘もある。

○ 子どもの問題行動等の現状については 平成16年度においては 不登校児童生徒数暴力行為の発生件数、いじめの発生件数が全体的には減少しているものの、小学校の暴力行為などが増加し、不登校児童生徒も依然として約12万人という相当数に上っている。また、平成17年度においても子どもによる重大な問題行動が続くなど、憂慮すべき状況にある。

○ 子どもの心身の発達については、社会環境や生活様式の変化が、様々な影響を与えて
いる。体力・運動能力調査の結果などから具体的には、積極的に運動する子どもとそうでない子どもの二極化 子どもの体力低下などが深刻な問題となっているところである


ウ 社会の各分野からの要請

○ 現在 我々の社会は 環境問題への対処 、少子・高齢社会における福祉の在り方など持続可能な社会の発展のために、国民が参加・協力して対処すべき大きな課題に直面している。    
 また、金融の自由化など社会や経済の各分野での規制緩和の進展に伴い、国民が自己責任を負うべき場面が増加したり、司法制度改革の一環としての裁判員制度の導入などの新しい仕組みが設けられたりしている。

○ こうした社会経済システムの高度化・複雑化が顕著な現代において、将来の社会を担う子どもたちには、新しいものを創り出し、より良い社会の形成に向け、主体性を持って社会に積極的に参加し課題を解決していくことができる力を身に付けることが求められる。

○ また、国際化、情報化、科学技術の発展の中で、社会や経済のグローバル化が急速に進展し、異なる文化・文明の共存や持続可能な発展に向けての国際協力が求められるとともに、人材育成面での国際競争も加速しており、科学技術教育や外国語教育など、学校教育においても国家戦略として取り組むべき課題の存在が指摘されている。


エ 学校教育に対する国民の意識

○ 「義務教育に関する意識調査」では、保護者の学校に対する総合的な満足度は70% ( とても満足している 「まあ満足している」の計)に達している。

○ 他方で 特に 肯定・賛成 とてもそう思う 賛成 まあそう思う まあ賛成の計が60%を越える意見としては 「総合的な学習の時間は、教師の力量や熱意に差があり指導にばらつきが出る (肯定65.3% )「年間の授業時間を増やす (賛成67.0% )「放課後や土曜日、夏休みなどに補習授業を行う (同61.4%)、小学校から英語活動を必修にする (同66.8%) 「将来の職業や生き方についての指導を行う (同62.7% )「地域での体験活動やボランティア活動を行う (同63.7% )「複数担任制や少人数による指導を行う (同80.9%)などがあった。 」


 この調査で圧倒的に高い数値を示しているのが「複数担任制や少人数による指導を行う」 こととあります。40人で授業をするのと30人で授業をするときの大きな差。現場で授業をしていて実感します。これは実は非常に大きな問題です。教育の充実を図るならばまず、ここと言いたいです。当然のことながら、これは中央教育審議会や文部科学省に言うことではなく政府に言うことですね。日本の未来のためにどこに投資するのかという問題ですから。

 余談ですが 、この調査を行っているところが株式会社 ベネッセコーポレションであることに驚きを感じました。10年以上も前ですが教育委員会を通して学校に教科に関する意識調査の依頼が来ましたが…。
 ベネッセコーポレーションの活動に対して、どうこう言うのではありませんが…。様々な分野に進出されていますが、いわゆる「チャレンジ」という教材を見ていると確かにすぐれた内容ですが、あれだけ至れり尽くせりに慣れてしまうと自ら工夫して学習していく力を奪いはしないかと気にかかります。
 ☆「義務教育に関する意識調査中間報告」

○ また 文部科学省が実施したスクールミーティングでも 学習内容や授業時数の減少 、基礎学力の低下や塾通いの状況が気になるといった意見があった。
 その一方で、子どもが外で遊ばなくなり発達に応じた遊びや体験がない、コミュニケーションが取れなくなったといった子どもの変化を指摘する声も多く 子ども同士の 群れ遊び などの交流あいさつ運動、マナーアップ運動が有効との意見があった。

○ このように学校教育に対する国民の意識は多様であるが、子どもたちがよく学びよく遊び、心身共に健やかに育つことを目指して、高い資質・能力を備えた教師が自信を持って指導することにより 「確かな学力」を確実に定着させることや将来の職業や生き方について見通しを与えることを期待するとともに、学校と家庭が連携しながら発達の状況に応じた遊びや体験をさせたり、コミュニケーション能力を育成することを求める声が多い。


(4) 学校や教育行政の在り方についての検討課題

○ 学力低下への懸念や塾通い等、特に公立学校に対する不満も少なくない。それらは時代や社会の変化に起因するものもあるが、学校教育、教育行政が十分対応できなかったことも否めない。

○ 学校の問題としては、学校教育において子どもが身に付けるべき力やその力を具体的にどのようにしてはぐくむかという道筋について、子どもや保護者、地域との間で必ずしも共通の認識がなされず、教育の成果や課題が不透明で見えにくいといった点を挙げることができる。

○ その一方で、子どもや保護者も変化しており、教師の仕事もこれまで以上に多岐にわたっているとの現状も指摘されている。教師が子どもと向き合って教育活動を展開するためには 学校における組織的な対応や教師を支える仕組みの必要性も指摘されている

○ また、学校教育を支え、その成果に対して責任を負う教育行政についても、学校教育の現状や課題について十分にその現実を把握できているか、保護者をはじめとする国民や住民に対して十分に説明責任を果たしているか、学校を支えるための条件整備を十分に行っているかなど、改善すべき課題を抱えている。

○ こうした中、義務教育答申においては、学校の教育力(学校力)を強化し、教師の力量(教師力)を強化し、それを通じて、子どもの「人間力」の豊かな育成を図ることを改革の目標としている。

○ 特に義務教育システムについて、
1 目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行うこと、その上で、
2 市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、
3 教育の結果の検証を国の責任で行い、義務教育の質を保証する構造に改革すべきであるとし、国の責任によるインプット(目標設定とその実現のための基盤整備)を土台にして プロセス 実施過程は市区町村や学校が担い アウトカム 教育の結果を国の責任で検証し、質を保証する教育システムへの転換を図ることが求められていると提言している。

○ また、同答申では、教育の中心的な担い手は学校であり、国は義務教育の根幹保障の責任を、また、都道府県は域内の広域調整の責任を十全に果たした上で、市区町村、学校が教育の実施主体として、より大きな権限と責任を担うシステムに改革する必要があるとしている。

(5) 学校の役割と家庭・地域・社会の役割

○ 子どもたちを取り巻く環境の変化として、家庭や社会の教育力の低下が指摘されている。スクールミーティングの結果からは、保護者の価値観が多様化していることなどにより学校の教育活動が難しくなっているという意見や、家庭で基本的な生活習慣を身に付けさせてほしい、しつけをしっかりやってほしいという意見が多く示された。

○ 学力の向上をはじめ子どもの健全な育成のためには 睡眠時間の確保 食生活の改善
家族のふれあいの時間の確保など、生活習慣の改善が不可欠である。子どもの育成の第一義的責任は家庭にあり、教育における保護者の責任を明確化することが必要である。

○ 大人が家庭や地域で子どもの教育に十分役割を果たせるようにするためには、大人の働き方の問題がかかわっており 企業の協力も必要である 男女共同参画社会において子育てと職業が両立できるようにするための行政や企業の取組や環境づくりが求められる。

○ 他方、今日、朝食をとっていない子どもの問題など、家庭や地域の教育力が依然として不十分な現状、あるいは今後更にそれらの教育力が低下する懸念、格差拡大の懸念などを背景として、学校と家庭、地域との役割分担の在り方が改めて議論されている。

○ 教育課程部会においては、本来家庭や地域が果たすべき機能を学校に持ち込むのではなく、家庭や地域がその責任を果たすことが必要であるとの意見、家庭の教育力が低下しているからといって学校の役割を拡大しても、子どもの心の満足は得られず、家庭の教育力は学校で代替できる性質のものではないとの意見などがある。

○ 特に、心と体の育成については、家庭教育の自覚が強く求められる 「早寝早起き朝。ごはん」といった提案を出発点として、家庭教育の充実を具体的に進めていく必要がある。

○ この点については、後述するように、学校教育の到達目標を明確にする際に、基本的な生活習慣などについて家庭教育で取り組むべき目標を示していく必要があるのではないかとの意見があった。

○ 地域社会の大人の役割も重要である。学校外の人材(地域の人材や専門家など)が、地域の子どもの教育や学校教育に積極的に参画することが求められる。

○ 学校は、教育の専門機関として 「確かな学力」の育成などを通じて、国家・社会の形成者の育成について大きな責務を担うものであり、この役割を徹底して果たすことが望まれる。

○ 家庭や地域における子どもの実態に目を向けたとき、本来、家庭が第一義的な責任を負うべき問題についても、教育機関としての学校、教育者としての教師が、その補完的な機能を果たしている、また果たさざるを得ない現状がある。社会や行政は、こうした現実を直視し、必要な協力や支援を行うことが求められる。

by yumemasa | 2006-03-18 10:21 | 新学習指導要領 | Comments(0)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明