じっくりと描く中で育まれるもの

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 中学校3年生で日本画の授業。作品制作では、おもちゃカボチャ(観賞用カボチャ)をモチーフとし、日本画の面倒くさい(?)技法にしっかりと浸って描くという授業をしました。
 塗ろうとする一色の色を決め、その色になる水干絵の具のかけらを小さなわら半紙の中で細かく砕き、絵皿に移し、指を使ってにかわとしっかりと練り混ぜ、水を注ぎ溶かします。そして筆を使い分け、水でぼかしながら、カボチャを見つめ、一色の色を丁寧に描き入れます。これを着実に繰り返すことで、正しい作業が重なり、じわじわと、自分だけのカボチャが画面に現れてきます。

 この一連の色作りと色塗りの作業は、生徒は「面倒くさい」と投げ出すかなと思っていたのですが、案外、だんだんと生徒はその行為にはまり、楽しんだたようです。絵の具とにかわを混ぜる時間は、なにかと慌しい日常のなかで、少し違った時空に陥ったような感覚があったのでしょうか。また、日本画は平面的な絵なので、最小限の立体的な表現でいいため、「絵が苦手だ」と言っていた生徒も、制作に集中している姿が見られました。

自然なモチーフや自然な画材、そして偶然の効果もある少し扱いにくい水をじっくりと使い、目や指先などしっかりと五感を働かせながら描く、想いをじっくりと温めていく日本画の制作。将来どこかで、なにかの機会に、自分とは異なる個性、さまざまな文化を、実感を伴って理解し尊重することにつながってくれれば、と思います。
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〈生徒の感想〉

・日本画というのを描くのが初めてで、とても楽しかったです。ボードに下から重ねて色をぬっていったり、自分の好きな色を粉とにかわをまぜて作ったり、いろんな筆を使ったりと、新鮮なことばっかりで、楽しくできました。描いたのは1つのかぼちゃだったけれど、気持ちを込めて描けました。日本画を描いていると、平安時代の貴族みたいな気持ちになれるので、また機会があれば描きたいです。

・楽しかった。最初自分で色を作るときに、「自分で作れるのかなぁ」?と思った。色ができたときは、けっこう嬉しかった。色を何回もぬることで、良い感じに色がでて、良かった。墨汁でかげをぬったときは、「この上からぬったら、どうなるんだろう」と思ったけど、ぬってみたらちゃんとかげになって、少し驚いた。色を作るのも、ぬるのも、すごく楽しかった。

・他の人とは違う、自分だけのカボチャができたかなぁ、と思います。

滋賀・山崎仁嗣・高等学校教員

 昨年度まで勤務した学校は県立の中高一貫教育校(1つの校舎に中高生が同居する形)でした。私は高校の教員ですが、ここでは中学の美術の授業も担当し、中学3年の2学期に「日本画」をテーマに、作品制作と鑑賞授業を行いました。
 今年から移った学校の高1の授業でも、学校の大きな木を木炭デッサンでスケッチし、それをもとに日本画の制作をしています。
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《山崎感想》

滋賀の山崎さんが、今日メールで資料を送ってくれました。冊子には間に合いませんでしたが、なんとこれまで入院していたとのこと。退院してすぐにこれを送ってくれた訳です。感激しました。図工美術教育を通して子どもを育てていくことの大切さを思っている方々がたくさんいらっしゃる、勇気が出ます。元気がでます。
 作品だけではなく、こうして生徒の感じたことや考えたことについてその中で授業の価値を問うことは大事なことです。
「平安時代の貴族みたいな気持ちになれるので、また機会があれば描きたいです。」印象に残る言葉でした。私の授業でこんなことを考えた生徒はいなかったはずです。
 授業時間が少ない中で「日本画」?とも一瞬思ったのですが、生徒の中でゆったり流れた時間は大事な経験だったようです。授業を見る時、やはり作品や題材で目がいきがちですが、またいろいろと考えてみるきっかけをつくってくれました。感謝。
 山崎仁嗣さんのこの授業にこめた願い。「目や指先などしっかりと五感を働かせながら描く、想いをじっくりと温めていく日本画の制作。将来どこかで、なにかの機会に、自分とは異なる個性、さまざまな文化を、実感を伴って理解し尊重することにつながってくれれば、」が生徒の言葉の中から感じ取れます。
 ややもすると、他の人の実践に触れ、どういう方法で、どのような手順でこのような作品をつくらせたのかという方法に目がいきがちですが、そうではなく、やはり、何を育てようとしているのか、そこが大事にされないと。
 私も以前は方法論ばかりに目がいっていましたから。子どもの声や姿にもっともっと目を向けていかなければ。

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by yumemasa | 2006-09-17 10:40 | 子どもの表現 | Comments(0)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明