みんなで鑑賞するからこそ

2年生で授業で鑑賞の授業をしました。題材は「カレーの市民」。「カレーの市民」にしたのは人間の生き方に関することがテーマになっていること。その表情からさまざまなことが読み取ることになるであろうと思ったこと。
そしてこのあと彫刻の授業を組んでいます。

OHCを使ってテレビモニターにカレーの市民を写し出し、必要に応じて拡大したり、必要な部分を取り出したり。(ここに掲載している写真とは違います。松永さん写真ありがとう!)生徒はテレビを囲んで車座に座ります。できるだけつめて座ってもらって、つぶやくような声でも聞こえる程度の距離。全員が発言するように指名しながら感想を求めます。
みんなで鑑賞するからこそ_b0068572_193721100.jpg

 最初は全体として悲しい感じがするというような感想でしたが、「どの部分でそう感じたの?」とか「他の感じ方をした人はいる?」などという感じで進めていきました。そして6人(写真では4人の表情しかわかりませんけど)それぞれの思いの違いもよみとってくようになりました。
死を覚悟しているような感じ、つらいけれど決心しているような人もいる、ただごとではない雰囲気などという感想も出てきました。

 とにかく驚くべきは全員がテレビモニターを見続けていることです。一人下を向いていた子がいたので軽く声をかけたくらいです。下にあげた感想は授業の終了後「ごめん、時間過ぎたけれど、簡単でいいから感想を書いてください」と言って書いてもらったもの。すぐに書きはじめたのには、うれしかったです。





今回は鑑賞後、カレーの市民についてのお話しを解説として2分ほど触れました。
極端に言えば「なんだかんだ言わせておいて答えがあるのか。」とならないように(簡単に言うとシラケル。あるいは正解不正解という狭いところにいってしまう)事実だけを述べるなど、十分配慮した解説をしたつもりです。
 最後に生徒に話したのはこの授業を通して、ロダンの表現しようとした人間のさまざまな深い感情を読み取ったということが素晴らしいということ、みんなで意見を出しあって感じ方を深めていったことが素晴らしいのだと。

 さて迷いもあります。最後の解説は入れたほうがいいのか、いれないほうがいいのか。ねらいによるのですが、そのねらいも含め、教育課程全体のなかでもう少し考えてみたいと思っています。

鑑賞授業で、あらかじめ自分の感想を書かせてから、発表というスタイルをとる方法もありますが、これはせっかく他の人の発表を聞いて感じたとしても、あらかじめ準備された自分の発表を言うだけになりがちですから、他の人の発表とからみあわないところがネックです。
これでは教室で仲間とともに鑑賞をする価値が半減してしまいます。

今回のスタイルだとやはり他の人の考えを聞いてあきらかに自分の感じ方が深くなっています。そしていろいろな感じ方を尊重できる雰囲気にもなります。
発表でつまった生徒が出たとき、次のような補足しました。「感じるということに正解、不正解はない、あの人が好きとかあの色が好き、というのに対してそれが間違いとは言えないでしょう。その人がそう感じたのだから…ただ深い、浅いはある。」と。



〈生徒の感想(全員)〉

○作品を見て、自分で思ったことをはっきり言えなかったには残念だったけど、みんなの意見を聞いてすこし自分が成長できたと思います。絵を見て損はありません!!

○一番最初にみたときは、あまり考えられなかったけど、みんなの意見を聞いてもっと深く考えることができた。一人で見たら何も感じなかったかもしれないけれど、みんなで見てよかったです。

○わたしははじめ「悪くないのに囚らわれた人々」という感じがしていた。でも、みんなの意見を聞いているうちに自分の考えを変わったし、いろいろな発見があった。ロープで縛られたていたり…。リアルな緊張感が作品にあって、自分にも伝わった感じがした。作品鑑賞は楽しいと思った。でも床に座るのはつらいから改善したほうがいいと思います。

○一つの作品をこんなに時間をかけて見ることとで、くわしく考えることができた。心情、ポーズetc…いろいろ観察することができたので、次はもっとわかることができるかもしれない。楽しかった。

○今日の授業で作品をたくさん見ていろいろな考えをもち、作品から伝わる気持ちを理解できるようになった。

○全体的に悲しい出来事があり、涙をいこらえている人とにらんでいる人がいてその中になぐさめている人がいる。私はロープに気がつかなかった。気付かされて「あっ!」と思った。

○こんなふうに一時間ずーっと作品みてみるのもおもしろいと思った。

○一つの作品からいろいろな状況を想像できてよかった。おもしろかった。

○鑑賞して思ったことを銅像であそこまで深く表現できるんだと思いました。

○最初はよくわからなかたけれど、みんなのはなしを聞くうちに、ぜつぼうということを思いついた。

○一つの作品を一時間かけて見ることによっていろいろなことがわかった。

○今日の授業でタイトルとか知らないで作品を見ながら自分たちで想像するといろんなことが出てきておもしろいなあと思った。あの6人のひとたちは、はじめて見たときは、悲しみを表していると思った。

○この1時間で、作品のいろいろな見方がわかって楽しかったです。みんなの発表とかいろんな意見が出て、人それぞれ違っていろんな見方があるんだなあ…、と思いました。この1時間楽しかった。

○この授業で作品の気持ちなどが考える力が少しついたと思った。これから作品の気持ちなどを考えながらそれぞれの制作をしていきたい。

○ものをいろいろな角度から見ることで、色々なことを思うようになった。

○私がこの授業で思ったことは、ロダンがつっくったあの作品にさまざまな見方があって、それも人それぞれだった。ロダンの伝えたいことがたくさんあると思うけど、みんなの意見は素晴らしいと思った。

○今回は今までやったことがないくらい作品について考えてみて、奥が深いなあと思った。解説を聞いてしまうと、あまり想像がうかばなくなってしまうと思います。

○今日の授業は自分としてとても楽しい授業だった。人の感じ方が違うけれど、自分として、いい授業だった。自分を成長できたと思います。

○彫刻一つでこんな色々考えれるのはすごいことだと思った。ふだん目にしている作品も見方ひとつで色々な考えにつながることがわかった。

○作品を見て、みんなの感じたことがそれぞれ違っていて最初自分が思っていたことも、みんなの発表をきいてだんだん変わっていって、色々頭を使って面白かった。

○作品を鑑賞して作品を深く見るといろいろなことが見えてきてすごくいろんなことを感じた。もともとの意味は違っても自分の考えで見たりするのが楽しかった。

○皆それぞれの考えがあって自分の意見と違ってて自分にはない意見をでとてもよかった。楽しかった。

○最初はよくわからなかったけれど、近くで見たり、全体で見ることですごく違う印象になりすごいと思いました。
見る角度からも違う印象が与えられるんだなあと思いました。

○みんな一人一人違う考え方をしてて聞いていてもおもしろかったです。

○あの絵を見て、ほとんどの人が感じることは一緒なんだと思いました。いろいろな絵を見ていろいろなことを感じたいと思いました。

○あまり鑑賞でくわしく言ったこと(考えたこと)がなかったけれど、今回は自分でもまあまあ深く考えれたと思います。

○作品を見て…左の人は右のこぶしをあげているのは「いっしょにいこう」とよびかけているのだろう。しかし右の人はがっかりしているし、真ん中の人は「あーあー」でその右隣の人は死を覚悟している。命を人のためにささげる人間になりたい。

○みんな一人一人違う考え方をしていて聞いていても面白かったです。この図の人たちに会ったらあんまり近寄りたくないけれど、同情しちゃうかなと思いました。

○ロダンの彫刻を見てすごく悲しんでいるのかと一番右の人から感じました。右から二番目の人からはすごく、我慢しているのかなと感じました。
○この作品を見て感じたことは全員が囚人だと思ってたけど、解説では死を覚悟した人だとわかりました。全体的に暗い感じがしました。

○最初の印象は悲しい感じで何人かが集まって悪いことをしてつかまったと思った。授業の最後に先生が教えてくれたことを聞くとなるほどと思った。

○他の人の発表を聞きながら、自分の考え方が変わってきたし、深まってきました。みんなで作品を見るのはとても、おもしろかったです。

○みんなで作品を鑑賞するのは、とてもおもしろい!またやってほしいです!

〈山崎の感想〉

 マスコミで教育について批判的発言をする人たち、学校はもうだめだから再生しないとダメだと言っている人たち、とにかく(受験)学力をつけないとダメだと言っている人たち、道徳心や愛国心が欠如していると言っている人たちに、そんな人たちにこのような純粋な気持ちで作品を鑑賞する子供たちの姿を見たらどう思うのか。
 しかも、この授業は特別難しい授業ではないというところがポイントです。奥は深いですが、ある程度までなら少し勉強すればできます。
 同じ授業でもこのような授業をもっと素晴らしく出来る教師も多数います。

 さて生徒の姿とてもよかった、誠実という言葉がぴったりかもしれない。鑑賞授業は生徒のよさも発見できる。
 そして級友から学び、ともにつくりあげるという行為ではないだろうか。

《関連記事》

みんなで絵を見るのは楽しい←対話による鑑賞の授業例

生徒の言葉に感動しました

抽象美術の鑑賞←これは対話型ではないです。
Commented by 青木 at 2007-04-21 23:54 x
最後の解説を入れるかどうか,は,確かに迷うところですね。
ねらいによることもありますが,作品による,ということの方が私は多いかも知れません。
やはり、作品を理解する上でどうしても必要なことは、きちんと教える必要があっていいと思います。教えることで、広がり、深まることもあるので、やはり、作品によるかも知れません。
対話型鑑賞は方法は実にシンプルですから、実に多くのバリエーションがあっていいのだと思っています。
しかし、生徒の感想、たくさん載せましたね!山崎さんが、載せたくなる気持ち分かります。そう、こういう感想が出てくるから、対話型はやめられなくなるのかも知れませんね!
月曜日、新しいクラスでの授業参観です。担任の授業です。もちろん、授業は、対話型鑑賞です。保護者、巻き込みます(学級通信で連絡済み)
Commented by yumemasa at 2007-04-22 00:26
作品によるというのもわかります。例えばワイエスの「1946年の冬」なんてのは彼自身の言葉を紹介します。
解説、うーん、扱いはとにかく慎重に、よく考えてやりたいですね。子どもの中に何を育てるのかということを考えながら。
ところで、生徒の感想は今回は全員を掲載してみました。こうしてみるとまたいろいろ見えてきますので。やはり「みんなの意見を聞いて」というように仲間の感想から触発されてという部分が醍醐味なんだと思います。
生徒の発言を聞いていてこの子がこんな発言をするのか!なんてジーンとくる場面もありました。
前任校では教科によっては授業が成立しないようなクラスであっても、この「カレーの市民」はのってきました。それだけ対話型には魅力がありますね。さて作品は何ですか?
 どんな作品がいいのか、なんて今後は考えていきたいと思います。青木さん、そんな交流もまたおもしろいと思います。
保護者を巻き込むのはおもしろそうですね。
Commented by 青木 at 2007-04-23 22:35 x
授業参観終わりました。作品は、以前使った清水登之の「戦蹟」です。(準備する余裕があまりなかったので)ただ、今回は、ゲルニカなども持ち出し、「戦争」をキーワードに描かれた作品を比較させながら行いました。(2年生になったので、考える要素を増やして、ちょっとレベルアップです。)
ただ、まだクラス替え後のクラスがなじんでいないことや、やっぱり保護者という知っている大人がいるということで、生徒の意見が出にくかったです。
同じように保護者の方も・・・。これは、予想できていたことなので仕方ないです。
今回は、生徒が考えていって「きっとこうだろう」というものができつつあるときに、転覆させました。その時の生徒の「へっ?!」という表情が楽しかったです。
今日は、それほど意見は出ませんでしたが、授業後の保護者会で、
今後、担任が授業をすることになったときは、必ず鑑賞をやるということ、
できれば、また来て頂いて、その生徒の変容を見て欲しい、ということを告げました。
Commented by yumemasa at 2007-04-24 21:39
報告ありがとうございます。参考になります。対比させたんですね。共通点と相違点という視点から想像を巡らすというのもおもしろそうですね。そして何より転覆というのは興味深い。私も表現ではやります。
美術では「広げる」こと「深める」ことのバランスが大事ですね。
うーん、保護者も巻き込むなんていいですね。
Commented by 青木 at 2007-04-24 22:33 x
隠すことではないので、転覆の内容を書きます!
「戦争」をテーマに描かれた作品、というと、多くは「戦争反対」で、平和を願うようなイメージを持ちます。ゲルニカにも、そういう要素がありますし、戦争に対する怒りも入っています。そのことを少し知っている生徒もいます。だから、清水登之の「戦蹟」も、ゲルニカと一緒に見ると、なんとなく、戦いの終わった悲惨な様子を描いて反戦を訴えた、と思えてきます。生徒も、そういう意見になっていたのですね。
しかし、実は全く反対で、清水登之は、実は戦争絵画も積極的に描き、軍人に憧れていた人で、どちらかというと戦争を支持していた人です。このことを告げると、かなり困惑します。平和主義の生徒達にはむしろショックかも知れませんね。このことを伝えると、生徒は、ちょっと見る目が変わるようです。
授業直後、すぐに数名の生徒が来て、それぞれの絵を近くでじっとみていました。感想は、時間もなかったこともあり、たいしたことが書けていませんでしたが、この事実を整理できないでいる生徒も見られました。
保護者の方々は、ただただうなずいていましたが・・・・・。
Commented by yumemasa at 2007-04-26 21:22
なるほど、清水氏の作品はそういうものだったのですか…。でも私も戦争の傷跡を感じます。
さて08年の全道大会に向けて研究を進めていますが、そのうちの大事な考え方の中にどんな題材を設定すべきかというのがあります。私たちは「心育てる題材」として「美術による教育」の部分に目を向けたわけです。限られた時間の中で大事にしなければならないことです。そうしたときに鑑賞においてもどんな題材が重要なのかも考えていかなければならないと思っています。
 青木さんは地元ゆかりの作家も大事にされていますね。
鑑賞教育の中で、どんな作品と出会わせるべきかということについてもいろいろ考えていきたいと思っています。
by yumemasa | 2007-04-21 19:38 | 美術の授業(山崎) | Comments(6)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明