滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)

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第44回全国高等学校美術・工芸研究大会〔2007滋賀大会〕にむけて

~滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携について~

滋賀県立膳所高等学校 山崎仁嗣

1.学校と美術館、NPOなどとの連携

滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)_b0068572_22195283.jpg 滋賀県内では平成12年より、学校と美術館・博物館をNPOが結ぶ「連携授業」が始まりました。この授業は学校教員が授業プランを立て、NPOや美術館学芸員さんに協力を仰ぎ、内容によっては、陶芸作家さんや茶道家さんたち専門家が加わります。
 中心となったのは県内にあるMIHO MUSEUMと滋賀県立陶芸の森などの美術館、そして学校と美術館や作家などの専門家を結びつけたのがNPO『子どもの美術教育をサポートする会』です。
「本物の人や文化芸術」に児童生徒が触れる活動として支持され、今では小学校を中心に中学・高校へ、県内に広がっています。


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 私がこの本県における美術館・博物館と学校、NPOの『連携』が始まっていることについて初めて知ったのは、今から1年半ぐらい前のことです。

 昨年度より、私が勤務する高校でも県内のMIHO MUSEUMやNPO「子どもの美術教育をサポートする会」と連携し、高校1・2年生の美術授業で、「校外の人々との連携授業」を開始しました。

滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)_b0068572_226378.jpg 内容は、1年次にはMIHOMUSEUMの学芸員さんの協力を頂き尾形乾山の鑑賞授業を実施した後、陶芸作家さんのご指導で生徒が自作の器を制作し、自宅で料理を盛りつけ写真提出と鑑賞授業を行います。
2年次には、茶道についての鑑賞授業を行った後に、生徒が自作の抹茶茶碗を制作し、茶道家を招いて自作の器を使ったお茶会を実施します。

*この内容の詳細については今年度11月に滋賀県で開催します『第44回全国高等学校美術、工芸教育研究大会2007滋賀大会』でもお伝えします。

●1年生連携授業

滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)_b0068572_2292835.jpg写真:『鑑賞授業』と『自作の器に料理を盛った写真』

生徒感想:

・実際に料理を盛ることで「芸術」が完成するのではないか。生活の中に芸術の存在を感じた。

・乾山さんの作品や作陶を通してたくさんの人と出会いました。「人の心を動かす」
という面では美術も人と会うことも同じだと思うので、今回の授業は感動の連続でした。

・陶器を作るのは初めてだったし、自分とは何の関係のない疎遠の存在だったので、正直言うとはじめは全く興味を持てなかった。滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)_b0068572_2295529.jpgしかし、尾形乾山さんの生い立ち、陶器の歴史などを知っていくうちに、その奥深さに魅了され、作陶する時にはすっかりやる気になっていた。

・一つ一つの作品にいろいろな工夫がされていて、和歌などわからない私でも見るだけで楽しめた。昔の人で和歌をよくわかっていた人なんかがおいしい料理と一緒にはこばれてきたらとても嬉しかっただろうなと思った。





滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)_b0068572_22341663.jpg●2年生連携授業


生徒感想:
・歴史をお茶中心に見てみると、文化を背景に、お茶も移り変わっていく様子がよく 
わかった。侘び茶を大成させた利休さんの発想の奇抜さと柔らかい頭にびっくりした。

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・学芸員さんや陶芸家さん、NPOの方々に教えてもらったり話をすることができて楽しかった。


・陶芸と茶道という普段経験できない体験ができてうれしい。高校でこんなことができるとは思ってなかった。

滋賀のこの『連携』は草の根のように、根付き広がろうとしています。

そこには、子どものことを想う人々、文化芸術を接点としたさまざまな協力と信頼関係の蓄積があります。
滋賀県における美術館・博物館と学校、NPOの連携(寄稿)_b0068572_22355873.jpg学校、美術館・博物館、美術作家や専門家、NPO、大学生や一般ボランティア、文化行政担当者…。それぞれが自分の出来ることを、「子どもたちに豊かで実感の伴うほんものの体験」を経験させてやりたい、という思いで、相互に協力しあいます。
このような、文化芸術を通した人と人の関わりに、共感が集まるのではないかと思います


2.県内の動き
県内の美術館が連携し学校教員や関係者向けの『研修・交流会 センス・オブ・ワンダー』が実施され今年度で6年目(6回目)の開催となりました。今では、教員10年経験者研修の選択研修にも組み込まれています。
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また、この『連携』を、滋賀における教育や文化行政が後押しする動きもでてきています。昨年度より、滋賀県県民文化生活部県民文化課が中心となって「美術館・博物館と学校との連携授業研究会」が月に1度程度開かれるようになりました、美術館・博物館の学芸員さんや、小中高の教員、文化行政担当者、NPOやしが文化芸術サポートセンターなどの関係者が、一同に会し、この連携授業などについて意見交換をしています。
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この『連携』の広がりも一因となって、滋賀文化振興事業団の中に「しが文化芸術体験サポートセンター」が発足しました。さまざまな芸術文化体験の企画の助言や助成、仲介や、協力するボランティアの養成を行っています。
『滋賀の文化振興の在り方』への提言の中に「学校と美術館・博物館との連携の必要性」が盛り込まれ、県において条例の制定も検討されようとしています。

8月には、この連携活動がもととなって、新潟の柏崎へ有志が赴き、美術体験のワークショップを開かれました。
(詳しくは、大津市立粟津中学校・人見和宏先生のWEBページをご覧下さい)
 
美術教育HOTひろば

新潟日報2007年8月27日

9月17日には、この連携に関わる『百人車座会議』が開かれました。
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滋賀県知事や教育長を招いた意見交換会で、この連携に関わる小中高の教員や、美術館・博物館関係者、NPOや文化行政担当者ら約100人が参加し、率直で活発な意見交換が行われました。

かだ便り9月17日付け



3.第44回全国高等学校美術、工芸教育研究大会〔2007滋賀大会〕にむけて

 本大会は11月8日~9日に開かれます。
 大会まであと2ヶ月をきりましたが、実行委員会では「大会宣言文」(案)の作成など、最後の詰めを進めています。
 大会では、美術という教科性を確かめることや、鑑賞や映像などの授業の研究を進めることとともに、「地域との連携」が大きなテーマとなっています。
 義務教育の後の高校において「なぜ必修教科として芸術を学ぶのか」という存在意義や、主体性や情操の育成といういままでの教科の在り方そのものを見つめなおすことにも焦点をあてようとしています。これは、いままでの教育を否定するものではなく、足りないことは何なのか、維持することはなんなのか、と謙虚に我々のしていること・してきたことを見つめなおす、という意味です。
 そのためにも、高校の美術教育関係者以外(前述の『連携授業』に関わる学芸員さんやNPO、中学校や小学校の先生方、障害者芸術の関係者など)からの意見を聞く機会を、本大会では多く取り入れようとしています。大会のパネルディスカッションや冊子での文章発表などで、これほど多くの高校教員外の方から意見をいただくのは、今まであまりなかったのではないでしょうか。)
 文化芸術、美術を接点とした外部との『連携』は、教科として学校での居場所を取って代わられるという狭い考えにはなってほしくはありません。自分達のやっている教育を振り返り、なによりも生徒にさまざまな人々の存在や生きかた、その違いを認める機会を作り、実生活における文化芸術の役割や意義を伝える貴重な機会となる、学校教育における美術教育の意義にもなると考えています。
 本大会の「大会宣言文」(案)も今までにない(?)「謙虚に見つめなおすことを元に」
「これからの在りかたを構築する」という意味あいになるかもしれません。鋭意検討中であります。
内にこもり意義を確かめるだけでなく、外へ向けての連携と発信、交互理解のきっかけともなる大会を目指しています。

もしよろしければ、滋賀大会へお越しください。

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by yumemasa | 2007-10-08 21:52 | 美術教育の研究 | Comments(0)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明