*この記事は2012年4月に投稿たものです。加筆(追記)しましたので再投稿しました。
「動きのある美しい作品をつくる」ケントボード紙 B6(128×182mm)
この記事を書いた2021年4月の段階では、上の作品はできていませんでした。この記事の内容がより理解しやすいようにと考え、2021年12月12日に掲載しました。
この授業(中学校3年生)のねらいは、身近な素材で自分の手で新たな形をこの世に生み出す面白さを実感すること。頼りは自分の頭。だから頭の使い方を意識させるために拡散思考と収束思考という考え方を教えます。この授業を通して、発想(拡散思考)することのおもしろさを味わい、構想段階(収束思考)で美意識を働かせると美しいものが生まれてくることを実感します。
具体論としては、抽象絵画だけれども、まったくの自由では、授業のねらいが達成しにくいので、テーマを決めています。それは美の構成要素のひとつでもある「動勢(動き)」です。
生徒の頭の中は「動き」を表すことに意識がいきます。「美しい抽象画」を描くという意識はあとになってうまれてきます。
↑この写真は級友のアイディアを見ているところです。この時は私は教室の前に立って(写真では生徒の後ろに立っている事になりますが)生徒の表情や瞳の動きを見ます。そのことでの子どもの学びを見とることが出来ます。このように互いのアイディアを見る場をつくりますが、その場合によって生徒の反応は違います。反応がよくないときは理由を考えます。ときには生徒に聞いたりします。
この写真では生徒は作品を手に持って見ています。アイディアの変化の様子を見るのには引いて眺める感じが向いているということだと思います。
なお、この段階で他者のアイディアに触れることは拡散思考をさらにパワーアップします。ワークショップのようなものです。静かですけど。タイミングよく、見る場をつくると、真剣に見ます。それは、その時間が生徒にとって価値があるからでしょう。
短時間でできるだけ違うアイディアを出そう。まるで別人が描いたような感じになるように。丁寧にやる必要はないし、間違いもありません。テキトーでもいいのでとにかく数を。
とにかくどんどん描きましょう。じゃ、とりあえず5分やってみましょう。(5分後)何個できましたか?
この段階は拡散思考と収束思考のうちの拡散思考の段階です。
どんな作品を描いているかっていう視点じゃなく、子どもの学びを見るようになると、本当にいろいろなことが見えてくる。
静かで実に地味な授業です。でも、子どもの頭の中で起きている事を考えながら、授業をしていると、実におもしろい。こんな中学生の姿を見てほしいなあ、ま、そうのようなことがあって「街かど美術館」をはじめたわけですけど。
前の時間に休んだ生徒にはノートパソコンを渡してプレゼンを見てもらった。これでほぼ授業のねらいが理解できたよう。
この授業の悩みは時間配分。時間のかけ方でやはり学びの質が変わってくるので。この授業に限った事ではないですが。時間数が減ってから特にこの悩みは大きい。
《関連記事》
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どんな作品ができたか、よりも、何を学んでいるのか (この記事で紹介した次の時間(3時間目)〜拡散思考から収束思考に向かう)
(この授業の4時間目〜収束思考から作品へ向かう)
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作品が完成したあと ☆
何の先入観もなく、抽象作品を楽しめる人に
(追記 2021年12月10日)
中学校の教育現場を離れて、造形教育と言う視点で幼児から大学生、さらに社会人まで、様々な人と関わってきました。だからこそ見えてくることもあります。そこでこうして過去の記事に自らコメント入れることを試みています。
この授業は何年もかけて改善に改善を重ねてきたものです。
上の写真は2006年のもの。この頃、私の準備した台紙はモノトーンでした。 改善の大きな視点は、美術の授業で多様な表現を目指す場合に、みんなそれぞれ個性的で面白いという段階で終わってしまていることへの疑問から生まれました。それは発想段階で終わってしまっているということです。実にもったいないです。そうではなくて中学生ですから、そこで造形的な美しさを追求するようなものであってほしい。より難しいことへの挑戦です。それは中学生の後半以降だからこそできることです。より美しいもの、よりよいものを求めて追求するような態度を身につけてほしいと考えたのです。いわば美を追求する態度です。こうしたことから、この授業改善ははじまりました。それが2012年に書いた記事のようになっていきました。
さて、ここで生まれてくる抽象作品は見ていて本当に面白いです。でもこの授業を通して大事にしたかった事は、この記事の冒頭に書いてある通り、様々な能力です。特に拡散思考や収束思考は多様なアイディアを生み出す上でとても大切な考え方です。美術の授業通してこの思考方法を使うことの良さを実感してほしいと思いました。子供たちがこれからを生きていくとき、解決すべき課題にぶつかったとき(美術と言うことに限らず)、このような思考方法を使うと、解決方法を見つけやすくなる可能性が高まります。このような事は、この授業の中でも実際に話しています。授業に取り組む生徒たちもこの題材では非常によく頭を使っているということを自覚していました。メタ認知能力も高まります。
この題材ですが、紙と鉛筆だけで、今までこの世に存在しなかった新たな形を自分の手で生み出したのです。そう考えるとなんだかとても不思議な気がします。
でも、この授業は別に紙と鉛筆なくてもいいし、別の素材で別のテーマであっても、こうした能力を育てていく事は十分できます。今なら、別の素材でやるかもしれません。
よりよいものを生み出すのは、単に才能とか努力ではなく、思考法に象徴されるような頭の使い分けができるようになってほしいと考えたのです。そうなるためにはどうしたら良いかを研究してきました。その成果がこの授業です。
抽象画と言うコンテンツベースではなく、思考方法の育成と言うコンピテンシーベースの授業といってもいいでしょう。
この授業を現行の学習指導要領の視点から捉え直すと、またいろいろなことが見えてきます。
(追記 2021年12月12日)
「ゼンタングル」というものがあります。ここにある作品はゼンタングルに似て見えますが、そこでの生徒の学びはまるで違います。似て非なるものです。あくまでも、この授業では思考方法を学ぶことに重きを置いています。