*この記事は2012年6月に公開したものです。
「題材」の最後の時間になると、早く完成する生徒、時間が足りない生徒など、その進度に差が出てきます。生徒一人一人の制作の進み方に差があるがゆえの難しさがあります。皆さんは、どうされているでしょうか。
これまでは、私は、仮に早く完成した生徒がいたら、「もう一作品(小さめに)」「スケッチ」あるいは画集の鑑賞に取り組むように指導してきました。(かつては残った時間、遊ばれても困るからという消極的な理由で「やらせて」いました。)
さてこの最後の1時間は、現在、価値ある時間になってきました。それはこの時間にいろんな機能を持たせたからです。3年生くらいになると、自然体でとってもよい時間になります。美術教師として、この空間にいることを喜びに感じるような時間です。
(1)完成できなかった生徒の救いの時間
(2)校内展示のための「解説(感想)ラベル」づくりの時間
(3)額装(台紙にはりつけ)の時間
(4)題材のふりかえりの時間
(5)相互鑑賞の時間(自然にはじまります。鑑賞の時間を設定することも)
(6)絵などを描いたり、画集で鑑賞する時間(1年生の時から、やっています)
↑たぶん、この授業を見た瞬間は「?」って感じでしょうが、一人一人の活動を見ていると誰もが目的を持っていることがわかっていただけるはずです。ちなみに、中央の生徒は、すべて終わって美術室にある石膏像のスケッチをやっています。
(机は全部で48。在籍は32~35。校内で余っている机を美術室に持ってきて有効活用しています。なお、写真はコントラストを強くし、シャドーをつぶし顔がわからないようにしています。本当は中央の生徒の表情を見ていただきたいくらいですが…)
↑もう必死です。「時間が足りない!」という生徒のためには、この1時間は救いなのです。「ラベル書き」などのことは家でもやってこれますから。
↑真剣に完成目指すも、こうして単に完成させるだけではなく、よりよいものをつくろうと、見直しながらすすめています。
↑自然発生的な相互鑑賞の時間。ごく自然に作品を鑑賞しあう時間、批評しあう感じがすごくいい、ここで生まれるコミュニケーションはとっても価値がある。保護者にも見せたいなあ。
↑最後の追い込みをしている生徒が、作品が完成してしまった生徒に意見を求めています。離れてみたり、まわして見たり、私は内容は聞き損ねましたが、非常によい表情でやっていました。学び合っています。
↑作品解説ラベルは無地のものと方眼入りを用意しました。無地を選ぶ生徒が多いのは、うれしいです。字を書くだけなら方眼が楽でしょうに。「ラベルも作品のつもりで」と言っています。別に凝った事をしなくてもいいと話しています。全体のバランスを考えて文字を書くということはレイアウトを考えるという事です。
↑色鉛筆や色画用紙、透明水彩をすぐ使えるようにしています。身近にあると使ってみようかなって思います。大人だって同じです。
↑「額」に入れるってことを設定するということは結局、自分の表現してきた成果は、あなたが思っているよりもっと大切なんだという生徒へのメッセージでもあります。美実を日常の生活の中にという思いもあります。額の種類を多くしたら迷います、迷う中からまた多くの学びが生まれます。写真は自分の作品を持ってきて額の色や形と自分の作品のイメージをあわせているところ。ここで生まれる会話もよい。
生徒の一人が「この色、自分の部屋のイメージにあう!」って言ってました。
↑額に気にいった色がないということで
色を塗りました。こんな発想になるのは、いつでも絵の具が使えるようになっているからです。そのぶん、美術室は雑然としています。しかし度が過ぎると、ちょっと… 反省はするんですけど…
かつては授業時間内に掃除を徹底させていましたが。
↑「フィクサチーフを使うといいですよ」って言っています。それは「作品は大事になんですよ!」「あなたが作り出したものは大事ですよ!」って言っているということです。
「額」に入れたり「台紙にはる」のも同じです。
↑毎時間書いている「評価」これに授業終了直後に記入。ただし、一題材の「ふりかえり」の時には単位時間ではなく、題材全体を通して別紙に「この題材を通して感じた事、考えた事、学んだ事など」を書いてもらっています。しかし、今回は題材の「ふりかえり」そのものは宿題の形にします。時間がありません。年35時間は短すぎる!
↑今回は大きめの額も用意したので、マット台紙のかわりに白画用紙や色画用紙を使った生徒もいます。この写真の生徒は赤い色画用紙を切って構成しています。
↑この写真は次の題材「人の心を動かす形(立体で表す)」のための アイディアスケッチのための準備をしているところ。どんなアイディアが浮かんだんだろう?
↑額に入っているので授業後、すぐに展示しました。今回あるクラスの生徒から「校内の好きなところに置けるといいな」って声が出ました。校長室とか職員室前とか、トイレとかいろいろ出ました。あるいは○○先生の机の上とか、おもしろいからちょっとやってみようかな。北海道深川市の
渡辺貞之さんは現役時代、児童が作品をつくる前から、どこに展示するかを決めて取り組んだとお話ししてくれたこと思い出しました。
一題材のまとめの時間について書くのははじめてですし、授業を見ていただいた事もありません。でも何だか、今回は手応えを感じたのです。教室の中で繰り広げられる様々な美術の活動。言われなくて自らやっていく、そんな姿。
ただ、これとは別にこの「鉛筆による抽象絵画〜動きのある美しい作品をつくろう(生み出そう)」は、ダイナミックさに欠ける。もっと思い切りの活動があってもいいし….
これだと行為が限定されてしまう。ただし、間違いなく言えるのはものすごく脳を使って活動しているということです。
うーん、題材の設定理由は本当に大切です。それは美術という教科が義務教育の中に設定されている理由と繋がります。
なお、この記事では2クラス分の画像を使って1時間の授業を表現をしています。特にこの授業では生徒が様々な活動をしているので、1クラスだけではとらえきれなかったのです。
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子どもの頭の中で起きている事を考える
(追記)2022.2.14
*2012年に記事にしているってことは、教師を30年やって気がついたってことでもあります。時間がかかったなあ。でもこれを読んだ20代の人が、もとに何かに気がついて、もっと、もっといい授業をするんじゃないかなんて思っています。
(1)積み重ねの大切さ
美術の時間は、最終の時間が来たら終わり、というのは考えたら不自然です。ずっと思っていました。そこで設定したのが「一題材のまとめの時間」です。もっと追求してみたいと思う生徒も出てくると考えてのことです。このような時間設定は、どの題材でもできるわけではありません。時間がなさすぎますから。でも、ここで見えた3年生の姿を見ると、これが授業を通して身いついた力なんだと思えました。逆にいうならこのように育てておきたいということです。この時間が休み時間のような談笑の時間になるのであれば、それはもっともっと授業改善を進めないとならないということです。とは言っても、1年生の頃から終わった時間は無駄にしないように、指導してきていて、それが定着しているというのもあります。この積み重ねがあってこそでしょう。
(2)時間内にできること・自分で決めること
生徒によく話しています。
時間内にできることが、全ての価値ではない。例えば、数学のテストで時間が足りないとうことがある、だからと言ってそれができないということではない。ただ、今の日本の学校の枠組みの中で、よい評定を得るためにはできなければならい。それに対応していかなければならない。でも、それが全てではい。だから「頭が悪い」などと自分を決めつけると自分の可能性を狭めてしまいます。
美術も時間内でできることも大切なときもある。例えばデザイナーの話です。いいデザインの案ができましたが、その検討の会議に間に合いませんでした。それはデザインを採用する側から見たらないのと同じ。作品展をやりますと言って時間がないのでできませんでした。見に来た人は…。これは時間が大切な一例です。一方でつくった作品を壊してでも新たなものに挑戦したり、何年もかけて描き続けたり、まるで終わりのないかのようなものもあります。とことん納得いくまで追求するのです。時間は関係なく、理想を追求するのです。
どこで終えるかを決める。その決める場面も大切。時間をどう使うかを決める。決める判断の基準をどうするか。
美術の表現は様々な選択と決定があって成り立っています。それは、生きることと同じです。美術の時間は、どう生きるかを考える時間にもなります。