中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)

 中1でスケッチ、そして中2でちょっと時間をかけてデッサンの授業をしています。「見て描く」力をつけることはもちろんですが、見て描くという「面白さ」を味わってほしいのです。中1では短時間でたくさんのスケッチを、中2ではちょっとじっくり。
 かつては、デッサンが基礎・基本だから(最近はこの言葉は使っていません)とにかく、とことん追求させました。(この頃は「〜させる」という表現を使っています)もうそれはもう驚くようなものも描いていました(描かせていました)。まだ1年生も2年生も美術の授業2時間のころです。(なお、写真は2クラス分の中からセレクトしています)

 「面白さを実感する」ことへシフトしたのは、面白いという実感や自分が伸びていくことを実感することこそ、学び続ける姿勢を生み出すと考えたからです。だから授業中に評価するのは作品よりも「学び」。ここでは2年生の「学び」の評価を一部紹介させてただきます。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_2122930.jpg
↑写真は実際に描きはじめてから、およそ30〜60分経過したあたり。この前に構図を検討するためのラフスケッチを行っている。さらに、その前にはグレースケールと折り曲げた紙を描くという練習をしている。(1時間)



授業での私の主な指導の言葉。(実は1年生の時から似たような話をしています。)
「脳みそに「比べる」ということをさせてください。」(長さ、面積、角度など、鉛筆を使ったりして比べる。片目つぶってやってみるとわかりやすいですよ。補助線を使うと便利ですよ。)

「離れて見てください。作品手に持って。(一段落してから)細かいところばかりではなく、全体のバランスを見てください。モチーフの周りの形も見てください。」(←本当は「離れてみる」ことなど中2段階なら言わなくてもやるような感じに育てておきたいのですが…。まだ言ってます。)

「描くのだったらそっくりに描こうと決意すると面白いです。ま、こんなもんでいいかと思うとそれないりの満足で終わりますから」
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_212129.jpg
「じゃ、みなさんにすごいデッサンを見てもらいますか、これです。ダビンチのデッサンですけど、…彼が、間違って描き直している線が見えますか。」
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_2120517.jpg



「このように描くときは、描く線はうすい線が便利ですよ。だって修正を加えるとき楽ですから。」

(このあと、教室の生徒の作品から、ダビンチと同じ例をとりあげて紹介します。「ダビンチと同じですよ!すごいですね。」)

「うすい線を描きたいのにうまく、描けないという人は、テレビモニターで例を見せますから、見てください。他の人は私の話は無視して描いていてください」(そう言って、鉛筆の持ち方を見せ、実際に薄い線を描いて見せます。)→こうしてモニターで示さず、直接生徒のところに行ってやって見せる時もあります。教えて欲しい人いますか?って言ってから、行くわけです。学びたい気持ちが強いですから一気に身につきます。)


「みなさん、間違いを見つければ見つけるほど、ラッキーですからね。だってそこ直せばよくなりますから。」(この言葉は最近考えついた言葉です。本当にそんな感じになっていきます。)
「画家はね、間違った線を描いても気にしないで描いてくんですよ、それが当たり前ですから。」

「ほら、これがデッサンの進め方の例ね。(美術の副読本に掲載されている制作過程の写真)こんな感じですすめていくことが一般的なんです。じっくり見てイメージしてください。」
ただし、以下の補足をします。
「今見せたようなデッサンの進め方とは違って、実は、部分から描いていく人も中にはいるんです。絵には決まった描き方というのはありませんから、どんな描き進め方をしてもいいんです。ただ、今回は大まかに描いてから細かく描いていく一般的な方法をおすすめします。でも違う方法でもいいですよ。相談もしてください」
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_21435648.jpg

↑靴の裏を描くのに補助線を描いています。こうしなさいと言っていません。資料集にある制作過程の写真から学んだのか、彼の発明なのか。このような工夫などをテレビモニターで見せることで「学び合う」雰囲気をつくっていく。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_2154645.jpg
↑薄い線を描くときの鉛筆の持ち方やら手の動きを紹介した。うまく、その技を使っている。言われなくても普通にやっている生徒もいる。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_21593852.jpg
↑この生徒は画面の中にモチーフがうまく収まらなくて、苦戦していた。まだ早い段階なので描き直しを勧めた。その間に全体のバランスを比べさせた。リボンが体の真ん中あたりにあると発見してから一気によくなった。

中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_2241891.jpg

中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_2242295.jpg

↑(上の写真)まじめに取り組んでいるが、なかなか形がとれないでいる。実はこの前の段階ではラグビーのボールのようだった。形がとれない理由はたくさんある。彼には全体のバランスを見ながら部分に修正を加えて直しながら描き進めることを提案した。実際の彼の目の前で私が描いてみせた。そのときの私の頭の中で起きていることも補足しながら説明した。(下の写真)この円(球)の形を正確にとらえることが、彼に自信をつけると考えた。「円を正確に描くことは難しいけれど、これをやるとバランスをとる力とか、修正しながら力がついて、絵を描くのがおもしおくなるよ」って話した。ここでは円はほぼ描けたので他の部分の修正もはじめた。私も本人も周囲も驚いた。すごい。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_2229468.jpg
↑これを描き出す前にウルトラマンを描くのだったら、初代か、セブンか、タロウか、相談を受ける(笑)。楽しい会話だ。ちょいとウルトラマン談義。それはさておき、とにかく意欲的に描きはじめました。昼休みも描いていました。しかし、描きたい気持ちが先に立って、構図の検討なんかは適当にやったため、その結果、画面におさまり切らなくてやりなおしたのです。やり直したことを「くやしかった」と「ふりかえり」に書いていました。悔しい思いをするってことは「よりよいものを求める心があるからですよ」ってことと「くやしいと思ってやり直したことは身につきますよ」って伝えました。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_231166.jpg

↑私がモデルガンに、興味を示すと、このデザインのどこが気に入っているのかを教えてくれた。こうした会話にから、本人のモチーフへのこだわりが見えたりする。さて手元を見てほしい。実は指で大きさを測っているところ。「比べる」という脳みそ使っています。こういうこともあとで、まとめてクラスの中でシェア。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_23125840.jpg
↑両脇においてある鉛筆二本。彼はこの二本の鉛筆を手にもって大まかな形のバランスや角度をとらえていた。それを補助線として絵に描いていた。その姿をクラスに紹介したら、笑いが起きるが、直後理由を説明したら「へー」という関心の声に。生徒は技能を発明する。どうしてそんなことが可能か。それは、この場合は、どうしても正確に描きたいからである。それにしても学習指導要領の3観点目「創造的な技能」に「創造的な」という言葉はよくぞ加えたものだと感心してしまう。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_23192792.jpg
↑描くのをやめて手をおいてながめている。「比べる」「バランスをとる」ための大事な時間だ。こういう姿もクラスで紹介する。よりよいものを目指している証拠だ。

中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_23255656.jpg
↑モチーフは時として今を生きる自分の象徴でもある。音楽部の生徒たちの描いた絵は 音楽部の先生に相談して音楽室前に飾るようにした。互いに絵が似ないための工夫も生まれる。メトロノームの絵はいま、音楽室の前にはない。こうした環境づくりも授業に影響を与える。ところで、この生徒はグレースケールづくりのときに鉛筆の美しいタッチというものが気に入ったよう。それが反映されている。なお、こうした練習を制作の途中に入れると子どもの描きたい意欲に水を差す。だから本題材がはじまる前に練習的な題材を入れること必要。つまり「試す」活動はとても大切だ。美術教育でもっと注目されて良い。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_054356.jpg
↑野球のヘルメット。たくさんの補助線を使っている。片目をつぶってやっていた。こうして自分で考えてやった方法は身になる。彼のこれまでの描き方とはまるで違う。描く姿勢が違うのだ。自分が描きたいモチーフを描くことがそうさせているのだろう。
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)_b0068572_0581558.jpg
↑「あんまり小さいものを描くと難しいぞー」って言っているんですけど。彼はこの机の上でストーリをつくている。生徒たちの活動を外から見ると同じ時間で似たことをしているように見える。でも頭や心の中は違う。だから、おもしろい。


よく、絵を描くのが苦手な子がいるから「写真」や「モダンテクニック」などの表現方法は有効だという考え方も聞きます。それで、はじめから限界を決めてしまうかのような考え方なのではないでしょうか。少なくと見て描くというごく普通の面白さに気がつかないで終わってほしくないんです。
 
 さてここに紹介させていただいた方法に自分なりにたどりつくのに20年以上かかってしまいました。でもこの指導方法を取り入れたら、すぐにできるでしょう。

ところで、この題材は小学校低学年などではやってはいけないと思います。私の授業では中2。生徒にも「この描き方は小さな小学生の兄弟には教えないでね。だって絵を描くのがそれだけで楽しいと思っているのに絵に描き方があるって思ったら、それに縛られるでしょ。」て言っているほどです。「高学年で絵が好きな子がいたら、教えてもいいかもしれないけど」と話してします。だって小学校低学年のときには、「その時にしか描けない絵」があるのですから、その時代を大切にすべきだと思うのです。高学年ならやりますね。共同研究の授業でそう実感しました。

中学生に見て描くおもしろさは味わってほしい(その2)

《関連記事》



*追記(2021年11月)
 このようなデッサンの授業は、新卒の時から改善に改善を重ねておこなってきました。ですから、新卒の頃とは、授業の中で育てようとしていることが違います。言ってみれば、新卒の頃はコンテンツベースの授業。ここで紹介したものはコンピテンシーベースの授業と言ってよいでしょう。指導観が違います。さて、このようなデッサンをしていたら、描く力もつきます。例えば、中学校3年生で自画像を描いたら〜。しかも1時間で。それが以下の記事です。


*追記(2021年12月)
 この記事は2年生の内容です。1年生の以下のような授業があって、この授業があります。授業を一題材だけで考えていると学びはつながりが弱くなります。



by yumemasa | 2012-06-30 21:03 | 美術の授業(山崎) | Comments(0)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31