中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その3)

中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その1)
中学生に見て描くおもしろさも味わってほしい(その2)
 授業では「子どもの頭や心の中で何が起こっているのか」という視点を持ってとらえている。(その1)(その2)については主として「頭」に関すること。ここ(その3)では「心」に関することを少し書いてみる。

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↑そもそもこの授業は「上靴を描く」という教師の都合による題材設定であった。だって全員が上靴を描く訳だから、便利である。それをしっかり描かせるために靴を描くときのポイントを示したり、それにまあ、細かいところがあるので、生徒も真剣になって描くのでいい。授業構成もスモールステップで、出来ているかどうか確かめていく、子どもにも「やった、出来た」という達成感も生まれやすい。こちらだって生徒を活動を到達度で見ているわけだし。
 



でも、生徒に言われた訳です。「部活動の靴ではダメですか」って…そこから私が変わっていく。生徒が本気で描きたいと思ったら、そりゃもう、すごい力を発揮することがわかったわけです。実感として。
 そこからモチーフの選択の範囲をどんどん広げて今に至っているわけです。
そういう意味で私とは少し違う方向ですが「私の大事な靴」ってテーマでやったり「私の宝物」ってテーマでやったりしていいなあと思う授業をしてる方もおられます。そういう実践で大事にされておるのは描く側の「心」です。
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↑部活動のものを描く生徒は本当に、多い。だって今頑張っていることですから。それを描いたらやはり自分を表現したことになるのですから。これなんかは新品。値段を聞く事もある。(親もいろいろと出費が大変だ。でも我が子のよさを引き出したいですからね。)
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↑使い込んだものならちょっと手入れの話を聞いたりすることもある。部活の様子を聞いたり。
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↑部活動の場合は「試合に負けた」ときとか「レギュラー」になれなかったときなどは、ちょと意欲がダウンすることもある。でも部活動をやめないで頑張るのと同じようにやっぱり絵も立ち直る。そいう生徒は描くことと心が連動していることを実感する。(ただし、上の絵についてのことではありません。)
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↑これは誰からもらったもの?まさか彼氏?って聞いたら 違うそうです。なお、授業導入時に「好きな人からもらったものを描いていて、ある日、突然描くのがいやになる例がありますから、気をつけてください。いきなり意欲ゼロになりますから。実話ですからねー、こわいですねー」
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↑おじいちゃんにもらったプラモデルなのだそう。孫がモチーフにして描いている。なんかいいなあ、そういうの。

 ただし、気をつけることがある。あまりにも自分のモチーフと言いすぎるのもよくないと思う。だってそんなにこだわりのあるものがない生徒もいたり、家から持ち出せないものもあるわけ…で。言っているのは、別に描きたいものがなかったら 上靴でも美術室にあるものでも 徹底してクールにひたすら そっくりに描く、それだけを目標にしても 面白いよって言っています。
Commented by 東 健一 at 2012-07-01 09:03 x
御無沙汰しています。千葉県立美術館の東です。
この授業、素晴らしい取り組みだと思います。私が中学校で授業をしていた時は、完全に技術力習得のためにクロッキーやデッサンをやらせてしまっていたなぁ・・・と深く反省をしています。「見たまま、じっくり描く」という授業も、生徒の内面に光を当てれば、ただの技術習得では終わらないということがよく伝わってきます。
この限られた時数の中で、生徒達に、造形の楽しさや自信につながる技術を身につけてもらうにはどうすればいいのか?その時にしか作れない(描けない)ものを大切にしながら、その次につながる技術力も育てていく。
とても難しい事だと思っていたのですが、先生の授業のように「生徒の内面を育てる事を一番大切にする」ということをしっかりと持ち続ければ、自然に両立できることなのかもしれません。
ただ、そのあたりまえの事が私にとっては、まだまだ難しい事なのです。
Commented by yumemasa at 2012-07-01 09:36
東さん、この記事は、読まれてどう思われるか気になっていたのです。そして東さんが書かれたことは、私が言いたい事を端的にまとめていただいたような気がします。感謝。これを書いてよかったです。
なにしろ、研究会では まあほとんど話題にならないような題材ですから。地味もいいところです(笑)でもこうした当たり前のような授業のことを丁寧に記述することもいいかなと思いまして。
東さんが私の授業に共感してくださった段階で、きっと「私にとっては、まだまだ難しい事なのです。」という最後の一文は不要だと感じています。
東さんの書かれた「その時にしか作れない(描けない)ものを大切にしながら、その次につながる技術力も育てていく。」この言葉、ありがとうございます。
Commented by 舘内@札幌 at 2012-07-01 22:41 x
「描きたいモチーフを選ばせる」って大事ですよね。みんなが同じものを同じように描くことは、目標によってはもちろんありだとは思うのですが、あるときふとその授業、静物の水彩だったのですが“気持ち悪く”なってしまいました。なんとかしようと思い、テーマを「中学校生活を彩るものたち」と替えて行ったことがありました。山崎先生の授業と同じように子どもたちは部活のモノや、アクセサリーなどもってきて一生懸命取り組んでいました。ああ、そうか・・・と思ったきっかけの授業でした。
Commented by yumemasa at 2012-07-01 23:59
舘内さん、「ああ、そうか…」の話いいですね。美術の授業を子どもの側から考えてみる、って授業改善には欠かせない視点だと、思います。
ところで、舘内先生チラシの方、ありがとうございます。よい会にしたいですね。
by yumemasa | 2012-07-01 07:50 | 美術の授業(山崎) | Comments(4)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明
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