(寄稿)「これからの美術教育の方向と課題」遠藤友麗

前視学官である聖徳大学の遠藤友麗教授に「これからの美術教育について」をご寄稿いただきました。

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「これからの美術教育の方向と課題」

聖徳大学教授・女子美術大学客員教授 遠藤友麗
 

1 美術教育で大事にしていくべきこと

先般、ベネッセ教育研究所が全国の親に意識調査をした。「どのような教科の学習が大事か」という質問に対して、受験教科はすべて「大切であり重視すべき」と答えている。体育については7割、音楽も6割が「大事だ」と答えているが、図画工作・美術については3割しか大事だと答えていない。

◎ 今後美術教育で育てるべきことは次の6つの視点があろう
 (今後の指導要領改訂の課題でもある)


1) 豊かな感性・情操の涵養

人間は心の動物と言われるように心の豊かな在りようが大切であり、豊かな心や感性・情操の育成が重要になる。感性は「よさや美しさなどを感じ取る働き」、情操とは“感情がよい方向で働くこと”であり、確かに涵養する指導の構築が必要。心は表現することで本人にも他者にも具体に認識され涵養される。鑑賞では美と他者の心情・個性の理解という「他者への共感性の心」が涵養できる。

2)「自由・おもしろ表現」から、「美しさや心に思い描く想像世界などを創造的に表現する学習」へ

3) 小・中9カ年一貫して育てる能力・技能、鑑賞力や文化的教養等の体系化と確かな指導
  「認識力や想像力、表現技能の発達適時性を」
(例)小学5年~中学1年、中学2年~高校1年。
「できない・下手」という意識は子供の問題ではなく教師がしっかり教えなかったからではないか?
*“ぶっつけ本番一回切りの授業”からの脱却を!(ホップ・ステップ → 本番ジャンプ! へ)

4) 実生活で生きて働く確かな能力と国際言語としてのビジュアル表現力の育成(美術の生活化)

「美術は芸術であり学力や生活には関係ない」という考え方が一般化しており、このことが必修としての必要性を弱くしている。平素の生活で愛好するとともに生活や仕事などで生きて働く色と形によるビジュアルコミュニケーション&プレゼンテーション能力の基礎技能となるビジュアルデザイン構成能力、特に今後全世界をつなぐ視覚言語・国際言語としての絵や漫画、イラスト、アニメーション、映像表現等の基礎技能、生活の美的構成力などの確かな育成が美術の必須要素になる。

5)他者との協働による美の創作活動(生活の中で必要な実感のもてる美術の仕事)

個性や考え方の異なる複数人が一つの目標に向かって異なる心と能力を調和させながら共同で美しさや楽しさ、心の世界や若者の主張、学校や地域環境を美的に変えていくなどの活動を重視したい。このことは今多発している意思疎通の欠如による孤立不安・いじめ、心の育成にも有効に働く。

6) 文化の理解・教養を深める教育。  

インプット(感受・知識情報の入力)がなければ豊かなアウトプット(思考・想像、創造)はない! 
鑑賞は人々の美的営みや他者の心やよさ等を感じ取り、美と心の理解と共感性を深める行為である。これまでの芸術は表現に偏り過ぎ文化の理解教育がなおざりにされてきた。日本を代表する美術作品や作家、文化遺産等を知らない。伝統文化やこれまでの芸術作品と作者の生き方などの鑑賞はまさに「温故知新」の教育であり、日本人の基礎教養としての知的・感性的な認識・理解を深め、芸術文化の教養を備え語れる国際人としての資質・能力を育成する鑑賞教育も重視していく必要がある。このような文化理解の教育は日本の豊かな芸術に誇りを持たせる重要な教育であり美術教師の必須の責任と受け止めたい。また、地域の祭りや工芸など伝統的な美術文化のよさの体験的学習や、人々をつなぎ文化を守り新たなよき文化を創り出していく体験などをさせる教育も重要になる。

2 美術の「評価力」の涵養 

 図画工作、美術の評価はよく「教師が替わると評価も変わってしまう」「美術の教師は自分の価値観や好み・感覚で評価している」「生徒や親にはわからない」などと言われる実態がある。極力、教師独自の主観的評価ではなく客観的な評価ができるよう研修に務めること。始めに育成すべき資質・能力・経験等を明確にして生徒に提示し、その成果を評価の四つの観点から的確に評価していくことが大切。
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《関連記事〜ぜひ、あわせてお読みください》

美術教育の現状と課題,改善の方向(中教審)

《関連サイト》

遠藤友麗の美術・心の教育(2015年現在wenサイトはありません)
Commented by 現場をみてください。 at 2006-11-13 23:32 x
すでに試行し実践されている学校や先生方も少なくない。現場に実情を見ていただきたい。その先の具体的な示唆もなく、文字が浮いて見えます。
Commented by yumemasa at 2006-11-13 23:58
今後、学習指導要領づくりに向けてどんな方向になるのか、その方向性を示す可能性のあるものを、こうして紹介し、みなさんと考えていきたいと思っています。そういう意味で中央教育審議会芸術部会などでの話あいも注目しています。
「現場を見ていただきたい」さん、できれば、美術教育を「こうしたい!」というのがあれば、別のブログ「美術教育の大切さを考える」に投稿していただければと思います。どうでしょう?
ところで、遠藤先生のHPには、メールアドレスが明記されていますから、そこにそのようなご意見も出してはどうでしょう?
Commented by yumemasa at 2006-11-14 00:44
次期指導要領への提案などを集めたらよいのかなあ、これまでは、美術教育を残すための取り組みが中心でしたが…。
今度は自らが現在の図工美術教育を厳しく問いながら、未来を見つめる、そんな方向が必要なのかもしれません。
本来は大きな研究団体にやったらよかったのかもしれません。そういう意味では全国造形教育連盟の研究委員会には期待していたのですが、中間報告が最終まとめとなって残念でした。多くの意見をまとめるのは至難の業だったのでしょう。しかし、一石を投じたことに変わりはないでしょう。(考えるきっかけをつくっていただいたことに感謝)
新たに提示された指導要領をもとに意見を言っても仕方がないし、やはりその前に具体的な提案などがあるとよいのかもしれません。より高い一致点を見いだすために。
と、ここまで書いて教科の存続あるいは授業時間数に関する心配が消えたわけではありませんし。ただ、文部科学省のHPに「美術教育の現状と課題,改善の方向」が出された事から、教科は必修として残るのかなと思ったり、これをもとに時間数などを他教科と調整していくのかなと思ったりしています。
by yumemasa | 2006-11-12 14:31 | 新学習指導要領 | Comments(3)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明