感情を表に出す(その1)
2007年 02月 11日
15㎝角の正方形の画用紙にアクリルガッシュを使用。机には新聞紙。
今日は1時間で一人2枚以上の作品をつくりまーす!(生徒はえっ!?という感じ)
(ここで紙を配布。)
でね、何をやるというかというと、この紙に喜怒哀楽を表現してほしい。(喜怒哀楽という言葉の意味を念のため確認)
ただし、具体的なものは描かないでね。
そうだなあ、筆以外のものを使ってもいいですよ。指で描くとか、布で描くとか、何でもいい。本当は絵でやってはいけないことなんてことはないんですよ。でも舌で描くとかはお薦めしないなあ。(生徒の笑い)
でもね、ただ喜怒哀楽っていっても、つまらないから、色を使って描くとき、具体的な場面を思い出して描いてね。これが大事。何となくそれらしいものを描いたってつまんないでしょ。リアルに。本気で。
(生徒にはなんとなく抽象的に喜怒哀楽なんてものではなく、リアルにその場面をイメージしてもらってということです。で、一例として私の喜怒哀楽の例を話しました。)
そうそう昨年私がとっても怒ったことがある、もう本気で…。(生徒の表情が真剣になる)
それはね、イラクの小学校が爆弾によって半分壊れていた写真を見たとき。なんでだ!?子どもが何か悪いことした?もし、この学校がそうされたら?そこに自分の子どもがいたら…。許せないと思った…。
で、最近の怒り。車が渋滞していて、何やってんだ!前の車、早く行けよ。(生徒、にこり)喜びだってあるよね。学校で生活していて、あっ、今日は2回も好きな人を見かけちゃった!ドキドキしたりして…(数人の生徒、笑顔で反応)
でね、ひとつだけ条件がある。
最初に画用紙に何かの色を全部塗ってください。例えば黄色とか青とか中心になる色を塗ってください。もちろん、その段階で色に変化をつけてもいいですよ。色を混ぜたり、水加減を変えたり、グラデーションをやってみたり。
質問は?(どちらも同じテーマでいいんですか?)
いや、違うものをやってみて。うーん、もし全員が怒りをやったら、何か教室の雰囲気が怖くなったりして…みんなぷんぷんしだしたら怖いもんあ。
じゃ、はじめよかうか!レッツゴー!
(この段階ですぐに絵の具を出して色を塗れる状態になっている)
(何人か話しをする生徒がいたので、理由を尋ねる)
「あのね、人に何する?って聞くのは悪いことじゃないけれど、例えば哀しみを表現しようとしているときに人の話し声があると、じゃまになってしまうね。ちょっと、そのことも考えてください。わからないことがあったら、先生に聞いてください。無料で相談にのります。」
(教室は穏やか静けさ。中にニャリとしながら描いている生徒もいる。あとで聞いたら思い出し笑いをこらえていたそう。)
(授業途中で2分程、周りの人の作品を見るとおもしろいですよ。立ち歩いてもいいです。〜これは他の時間もやっています。〜自然な学びあいの場をつくるということです)
さて、この授業の存在理由。
・2学期にやった自然から学ぶは細かい仕事が多く、じっくりと練りあげていくもの。しかし、同じ美術でも同じ画材を使いながら(ここがポイント)全く違う美術があるということをつかんでほしかった。色にしても理性を使ってやっていたものが、今回は感覚、直感。色を使う楽しさを感じ取ってほしい。これを先にやると、この対比が弱くなる。いきなり中学校に来て、これでは、子どもは逆に浅いと感じてしまう可能性もある。
・この手の授業例はたくさんあります。テーマも様々、「音楽を聴いて」「味覚」「寒暖軽重」…。しかし、これらは課題を与えられての域は出ない、適応表現の学習内容に近い。この授業では日頃感情を表に出す機会がない子ども(大人になるとますます、そう)に絵の中なら、頭の中なら、思い切りできる、そのような絵の魅力を体験してほしかった。しかも現すのは「喜怒哀楽」と言いながら、具体的な場面を想定するので「自分自身」のこと。美術の時間で少しであっても自分を見つめる時間をつくりたい。描いている時は「主観」だけれど、出来上がった作品を他の生徒の作品といっしょに見ることで「客観」になる。
・これは技法指導でもあります。モダンテクニックの練習等ということでずっと以前は練習的にやっていました。しかし、そんなテクニックを教えてもらって試してみるのと、表現したいことがあるので、いろいろ工夫して自ら考えてやってみるのとでは思考に差があります。
それから制作手順。画面全体に下塗りをして色を重ねながら描いていく方法と、白い紙に下がきを大事にしながら色で描いていく方法と。前者は主調色を決めるということにもつながります。特に前者はこれまで授業でやっていないので、やってみる必要があるということです。
2年生、3年生になったとき、これらの手順も生徒自らが選択していくようにしていく。2年生や3年生になって表現の途中で制作の手順について教える場をつくると、生徒の行為に水をさすことにもなってしまいます。
・そしてこれらの作品を台紙にはって、並べるとなんだか素敵に見えます。作品の下には作品で表した生徒の意図がかいてあります。これを鑑賞したときに、表現のおもしろさを味わうことになります。自分の表したいイメージが伝わってるかどうかという作品的な考え方も出てくるでしょう。なお、この作品では作者の名前は目立たぬように小さく書かせています。先入観を持って作品を見てほしくないからです。(ただし、この鑑賞は授業の中でのことではないので、あくまで副次的なものです)
《授業改善》
・次のクラスでやったときは、テーマ別に台紙に貼った状態で生徒作品を見せ、喜怒哀楽はどれかを感じ取ってもらったあと、何点かの作品の生徒のコメントを紹介しました。
・紙の大きさと生徒の使用している筆の大きさ、時間などの諸条件から12センチ角に変更。結果、4枚やる生徒も出てきました。
・自由に交流する時間帯をやや早めに長くし、学びあいをするように改善したつもりが、裏目に出た生徒もいます。安易な真似をするこが何人か出てきたことです。もう少し悩ませるべきでした。紙が小さくなったので、前回より早く作品が出来たことで、悩んだあとに他の作品を見てみるという部分が弱くなったのだろうと思います。大きさについては一長一短があるという感じですが、小さい方が今のところメリットが多いと判断しています。
・作品鑑賞をうまく取り入れないかなあと漠然と考えています。鑑賞できるのは廊下掲示ですから。
・新聞紙への試しがきを推奨しました。
・長方形も考えましたが、色について考えるとき、正方形だと縦か横かの判断をする必要がありません。そのような思考場面を今回はあえてカッとしたことは良かったと思います。
☆感情を表に出す(その2)
☆ 感情を表に出す(その3)