地域素材「わら」を使った造形遊び
2007年 02月 25日
その題材に教師自身が明確なねらい、価値を見いだせないまま、授業をすることは本来あってはならないことなのですが…。
特に造形遊びの授業では身近なところに素晴らしい素材がありながら気がつかない、なんてこともあるかもしれません。
さて北海道・岩見沢の中澤孝仁さんが稲作の盛んな地域で「わら」をつかっての造形遊びの授業をてがけました。
「地域の素材を生かした造形活動の展開 」
●題材名 大地からのおくりもの(造形遊び)
●学 年 小学校 3・4 年生
●素 材 稲藁
●指導者 岩見沢市立第二小学校 中澤孝仁
●子どもの作品を語る会
年に一度開催されている「子どもの作品を語る会」。今年は43回目を迎えた。
そのほとんどが小学校を会場に開催されてきている。それは、会に参加した教員のみではなく、会場校の教職員や地域の保護者、そしてなにより会場校の児童たちに「図工の楽しさを伝える」ことを目的の一つにしているからである。
今年の会場は三笠市立美園小学校。児童数100人程度の小規模校である。
毎年、会場校のニーズに合わせた内容を展開している中、本題材は「出前!図工室」と 称し、初対面の子どもたちと共に楽しく造形活動をおこなう企画である。
●素材としての「藁」
今回、素材として会場校より提供されたのが「稲藁」である。子どもたち自身が学習の中で田植えから脱穀まで体験し、手をかけ収穫した米の副産物である。
副産物といえど、藁は古くから日本人の衣食住に深く関係し、生活の中にもっとも根ざした造形素材であった。畳や屋根、草履、俵、蓑 etc
先人たちは生活に必要な道具があれば、身近な材料を加工し「つくる」ことから始めた。
しかし、消費社会である現在、一般的に生活道具は「買う」ものと考えられているのではないだろうか。
地域の自然は、親から子へと道具のつくりかたと共に継承されてきた知恵と等しく、生活や文化という人間の営みに深く関わっていたのである。
地域で生産される藁も現在では素材として利用されることが少なくなった。これを用い造形活動を営むことで先人たちの工夫に触れる体験ができればよいと考えた。さらに、身近な自然の中にあるより多くの事柄に気づき、大切に育む心が育てばよい。
予測することの出来ない子どもたちの発想や技術的な質問・相談にも対応できるよう、私自身も幾日か藁細工に挑戦してみたが思い通りの形にはならず、藁細工の奥深さを実感した。しかし、逆に思いもつかないような形になってしまうところに、子どもたちの自由な発想が生まれる可能性を秘めており、素材としての藁の潜在力を見ることが出来る。
●指導の概要
指導内容は 技術指導 と 安全指導の二点を主とする。
昔ながらの藁民芸の世界でも、主な技術は「なう たばねる あむ ねじる」のたった四つである。そこで今回指導する技術も「縛る」「編む」「ねじる」「切る」など、基本的な工作技術のみとした。難しい技法や完成の形を決定してしまうような技術は逆に子どもたちの発想を狭めてしまうことになると考えたからであり、その組み合わせによって、どのような造形活動へと広がるかは、子どもたちによって大きくかわる。作例も基本的な技術見本以外は提示しなかった。これも素材体験の中から浮かび上がる児童の発想を妨げないためである。
無論、この方法は今まで藁細工を体験したことのない中学年を対象としたからであり、経験を積んだ学年では高度な技術を要する作品づくりへと発展させてみてもよいと考える。
●指導の実際
1 藁 (素材) と の 対面
子どもたち自身が田植えから脱穀まで体験した藁。すっかり乾燥した藁を体育館に運んでおく。山と積まれた藁と広い体育館。
豊富な材料と広い作業場は、子どもの造形活動になくてはならないもの。
私も子どもたちと初対面。簡単に自己紹介。
2 導 入 と 技 術 指 導 (10 分)
藁細工の歴史を極簡単に説明。生活に深く結びついた素材であり、多くの日常品がつくられたことを話す。それにより、単なる工作素材ではなく、モノをつくることもできる「材料」として認識させる。
前述の技術指導や安全指導をおこなう。作業中は藁の粉が舞い上がるため、喘息等の心配がある子も事前に確認しておく。
3 こどもの活動 (50 分)
「やってみよう!」の一声で子どもたちは藁と格闘。広いスペースだからこそ、体全体を使い大きな藁を束ねていく。 あとは子どもたちの活動を支援。
藁を束ねる際には麻縄を使用した。藁との摩擦が大きいため、中学年の力でもゆるみにくく縛りやすい。何より活動後「可燃ゴミ」として処理出来るのが良い。針金・結束バンド等も考えたが、やはり活動後の処理を考えると使えない。せっかくの自然素材を「自然にかえせないモノ」に変えてしまうのは題材としては良くないと考えた。
4 ふりかえりと片付け
活動終了後、つくったモノや活動したことを子どもたちから聞く。その後、毎年大量に生産される藁も、昔のように加工されることが少なくなった現状を話し、素材についての理解の深化をはかる。そこから地域の自然について考える機会になればよいと考える。
自分が作業した場所を片付けて活動終了となった。
●活動を終えて
今回は学指導要領の「A 表現(1)」の「材料や場所,ものをつくった経験から発想したり,みんなで話し合って考えたりして楽しく表す」「材料や場所の特徴をもとに,組み合わせる,切ってつなぐ,形を変えてつくるなど工夫し,新しい形をつくるとともに,その形から発想してつくりだす造形遊びをする」を活動内容とした。
結果として子どもたちがつくり出したものは大きさも形も多様なものであった。
ほとんどの子が「持ち帰ってもいいんですか?」と聞き、大切そうに教室に持ち帰っていった。
出来上がりの形よりも、藁という素材からつくり出す行為に満足感を覚えた結果、できあがった作品にも愛着を持ったのだろう。
また今回は藁という素材自体にも子どもたちが愛着を持っていたため、よい造形活動をおこなうことが出来たと思う。
今後も図画工作科において、子どもが「行為に満足感が得られる」題材を研究し、作品に「愛着を持つことができる」子どもたちを育んでいきたい。
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この記事は中澤さんから、直接いただいた資料をもとに制作しました。これは東京書籍の「東書Eネット」の「 図画工作」で発表されてたものをもとにしています。
なお、「東書Eネット」の機関誌「教室の窓」 小学校・図画工作のVol.6には、空美会員の 渡辺貞之さんが巻頭言として「地域を見つめることは自分の生き方を問うこと」という文章を書いておられます。その中で以下のようなことを述べられています。
「自分の生活にかかわりのあることから表現するという行動に移るということは,ただ絵に描くとか, ものをつくるということでなく,生活の中での人間の営み,自然とのかかわり,社会とのかかわりを見つめ,人間として生きることや,生活していくことの意味や力をつけていくことなのです。 」
☆ 機関誌「教室の窓」 小学校・図画工作
*この記事については東京書籍様に連絡をし、掲載教科を得ています。感謝。
《関連サイト》
☆ 全空知子どもの作品を語る会の報告 その3 出前!図工室
↑ブログ「ハートでアート」