鬼丸吉弘「創造的人間形成のために」

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 鬼丸先生の著作「児童画のロゴス」は美術教育を考える上で、根っことしておかなければならない大切なことが書かれています。

 さて、ここに紹介させていただいた「創造的人間形成のために」は、一般の方が読まれてもよいような内容になっています。実際に子どもを前に指導される先生にこそ強く強くお勧めしたい本です。

 特に図工の指導が苦手とかよくわからないなどとおしゃっておられる方や大学生には最良のテキストになると思います。

 本書の中で鬼丸先生が厳しく批判されておられる間違った指導などは実はいまだによく私も見聞きします。簡単に言うならば子どもの絵が大人の絵とくらべて稚拙というとらえ方です。まったく成り立ちが違うにもかかわらず。
 いまだある作品主義的な指導。(私もかつてそうあることが指導力と考えていました。)本の中には「子どもの手を借りた大人の絵」という言葉も出てきます。
 
 さてこうした児童画の発達について書かれた本で中学校段階の指導について述べている本は少ないのですが、本書にでは例えば以下のように書かれています。

 中学生の段階になるとやや違ってきます。造形形式について「教える」ことが可能です。
 ただ誤解をしてはいけないことは、この場合も、知的な教科とはっきり区別しなくてはならないことです。つまり「教える」とは、「そう描かなくてはならない」、「そう描くのが正しい」という意味でなく、「こういう描き方もある」、「勉強のためにひとつこの描き方で描いてみよう」という意味で教えなくてはならないということです。
 さまざまな描きかたがあるのです。人間は本来、どの描きかたを選んでもいのです。それらの描きかた、造形形式自体は相互の間に、価値の差はないのです。
 ここで鑑賞教材の使い方が意味を持ってきます。(p111)


 大学生の時に受けた鬼丸先生の講義を思い出します。(なんと幸運なことか!)

鬼丸先生の大事な言葉。

「描画は子ども時代の、またとない創造訓練の場である。自発的表現を待たない「指導」は創造の芽を殺してしまう。」

《関連記事》

 ☆ 児童画への理解が足りない(その1)←鬼丸先生が勧めておられる本「ローウェンフェルド「子どもの絵ー両親と先生への手引き」について紹介しています。

 ☆幼児の絵をどうとらえるか…林 健造さんの言葉

 ☆ これが幼児の絵!? 魔法の酒井式描画指導法

 ☆酒井式の放送後考えたこと

 ☆ 子どもの絵を10倍たのしむ方法


この記事は2007年5月に書いたものです。一人でも多くの人に読んでほしいので。再掲載しました。
Commented by 山崎正明 at 2007-05-19 10:04 x
斉藤さん、私はまじめな学生ではなかったので…。でも講義の中で話されていた内容には「なるほど」「そうだったのか!」なんて思うことが多々ありました。このような内容が書籍として一般の方々にもわかりやすい形で伝えられていることはとてはとても価値があると思っています。
この本は多くの方々に読んでいただきたいですね。
Commented by 空樹砂波 at 2008-12-25 19:49 x
はじめまして。札幌市円山公園にある社会人向けのアートスクール(CAI現代芸術研究所内)を3年前に卒業した者です。そのスクールの卒業展を前にチュートリアルをしてくださったアーティストでもある講師の先生が、この本を薦めて下さいました。今、改めて読んでみたい気がして検索しこちらのHPに辿り着きました。
ありがとうございます。

Commented by yumemasa at 2008-12-25 21:05
鬼丸吉弘「創造的人間形成のために」は、彼の著作の中でも特にわかりやすいものです。子どもの絵の世界を知るための最良の本の一つです。
私もこの本は素晴らしいので「教育美術」という美術教育雑誌で紹介させていただきました。
私の家から札幌も近いです。何かの縁ですね。
Commented by angel at 2010-02-10 03:23 x
藤女子大学在学時 鬼丸先生の 美学の授業を 選択していました。
大変興味深い 授業でした。ただ今、ローマ在住しています。先週末 フィレンツェに行って来ました。建築、 絵画、 彫刻。授業での 感動が 蘇りました。 感慨深く鑑賞しました。先生にお礼を書きたいのですが 先生の連絡先ご存知でしたら教えていただけますか?
このブログで紹介してくださった 「創造的人間形成のために」は
まだ 読んでいませんが 心から共感して読みました。帰国したら読んでみたいです。 ご紹介 ありがとうございました。
Commented by yumemasa at 2010-02-10 06:27
angelさん、鬼丸先生の連絡先はわかりません。出版社や大学から調べてみるのはいかがでしょう?
いいですね、ローマ在住ですか。さて、「創造的人間形成のために」は、かつての先生の著作よりも、非常にわかりやすい内容になっています。
これは、大変重要なことだと思っています。
Commented by すずきひとし at 2012-10-14 08:01 x
山崎先生の紹介してくれた抜粋の文章、納得する言葉ばかりです。
Commented by yumemasa at 2012-10-14 08:52
ひとしさん、抜粋して掲載した甲斐がありました。ここに紹介したことで一人でも多くの方が読まれて、確認をしてくれたらなあと思います。なお、私はここで紹介した111ページの言葉でより明確に意識するようになりました。ほんの一部にすぎないということをわかってやるということは、逆にその場で広がりを紹介することになります。
Commented by 齋藤 啓代 at 2013-01-18 16:42 x
 再掲載有り難うございます。改めて,鬼丸先生の「児童画のロゴス」「原初の造形思考」「創造的人間形成のために」を読み直し,生徒の制作の過程の見方を考えて行きたいと思います。美術の先生だけではなく,お子さんと接する多くの大人のみなさんに読んで欲しいです。開眼します。よ。おすすめです。
Commented by yumemasa at 2013-01-18 23:10
齋藤さん、コメントありがとうございます。
授業をつくりあげる上では経験や実践から学ぶだけではなく、こうした理論の勉強も大事ですね。現在取り組んでいる中学校美術Q&AのQualityを考えるとき大変役に立つ本ですね。
Commented by CAMERA at 2013-01-20 09:32 x
さっそくアマゾンで注文しました。最後の一冊でした。
Commented by yumemasa at 2013-01-20 18:25
それはよかったです。これは、理論面の根拠にできる本です。長年の研究の成果をとにかく実践的にわかりやすく書いてくれた本です。
by yumemasa | 2013-01-17 06:39 | 本(美術) | Comments(11)

「美術教育」や「自然」に関するブログ。人々がより幸せになるための美術教育について考え、行動します。北海道北広島市在住。中学校教諭32年、大学で幼児教育・初等教育担当8年。現在、時間講師。


by 山崎正明