見て描くということ
2007年 09月 04日
中学校に入学したら美術では本格的にやるという期待、あるいは不安、それぞれがいろいろな思いを持ってきます。そこでこのスケッチに取り組みます。作品としてではありません。
さて現在、授業時間数がすくないので、始業前のスケッチに取り組んでいます。
描いている子どもの目の動きと手の動き、表情を見ながら、スケッチしている様子を見たうえで描いたスケッチの解説をしています。
作品をカメラを通して大型モニターにつなぎます。
↑この絵は、目で手の輪郭をおいながら、ほとんど同時に手を動かして描いています。これは私が「教えた」方法です。(これは「本当に見て描くとは…?」というテーマでやっています)教えた最初の頃は一筆書きのようになっていいます。おまけに画面を見ないで描いた結果なので、一瞬見ただけでは、何を描いているのか、わからないほどのスケッチになります。しかしよく見ると、その中に驚くほどリアルな線も生まれいます。(これもテレビモニターで解説)
この絵(上の写真)はこの描き方に慣れてきたころなので、線を描いては確かめ、また描いては確かめ(ものすごい回数)で全体のバランスに気をつけて描いています。
この絵を描いているときの様子をテレビモニターで作品を見せながら解説します。「一本一本の線をすべて確かめて描いていました。ですから、目は対象である手と紙を何度も往復させています。本当に見て描いています。」
↑これは模写ですが、最初におおまかな形を描いています。ここで注目したいのは、描いた形にに修正を加えることを予測してうすい線で描いているということです。
最初に教えた方法では、なかなかバランスがとれません。ですから、この後、いわゆる一般的な描き進め方を紹介するわけです。(「これまでの方法ではバランスがとれないので…全体→部分」)。
この絵ではよりよい形を生み出そうと線を探っています。そして上の手のスケッチとは違って時々手をとめて対象と描いた絵を比較する時間が長くなっています。短時間の中でものすごく頭を使って描いています。
↑絵の描き進め方は、二通りの方法を教えますが、そのあと、「絵の描き方にきまりというのはない」という話をします。そこで不安になる子もいます。そこで見せるのが画家の描いたスケッチです。線をよく見せると間違った線の上から違う線を描いていることに気づきます。子どもにとっては意外で、驚きの声もあがります。画家でも線は間違えるということがわかるわけです。
そこで絵を描いていて間違えたらどうする?って話になるのですが、「間違ったら直せばいい。それだけ。」間違った線を基準にして描き直せばよいと言っています。
この絵では描いているうちに黒板消しの長さのバランスが違いに気がつきます、かき直したあとがはっきりとわかります。こうなると頭の中では「間違ったどうしよう?」「形がうまく描けない」といった考えは消えていきます。(描いた本人にその時、どう思ったかも聞いています)とまどった表情は見えなくなります。
このようなことを全員の前で絵を見せながら解説していくわけです。同じ時間に同じ教室で絵を描いているのに描き進め方がまるで違います。実はいろいろ「教え」ながら、絵はこう描かなければならないということはないのだということを実感してほしいわけです。
ちなみに。中2では「じっくり見るのはやめて、気軽に描いてみようか、そうだなあ、雰囲気というか、似せるなんて思わなくていいから」というようなことをします。
さて、級友の絵を解説することで、「学び(描いているとき、どのように頭を使い、どんな工夫をしているか)」を、共有化できます。こうすることで子どもたちの学びは広がり、深まり、結果よりもプロセスに眼が向くようになります。描いている瞬間が貴重なのです。
昔はいわゆる「この絵を目指しましょう」的な絵を見せていたわけですが、これでは級友の作品を見て「すごい!」「うまい!」でおしまいになりがちです。(もちろん解説はしましたけれど)ですからこの記事で紹介されたような絵は取り上げられないわけです。しかし、ここにあげた絵はやる気を出させるためにあえて紹介しているのではないです。ほめて伸ばすというのとも違います。やはりそこに学ぶべきものがあるから事実を紹介するわけです。
入学時に3時間扱いでクロッキーをするわけですが、さんざん人物を描いておいて、いきなり風景を描いたりします。「人物の描き方を勉強したわけじゃないから」って言って。うれしいことに、このような指導法にしてから「もっと描きたい」「おもしろい」っていうようになってきています。
そして「描いた絵を離れて見てごらん」というのを続けていくと子どもは自分の力で全体のバランス、比例を考えるようになっていきます。「補助線」なんかを発明する子も出てきます。
なお、この指導をするとき、必ず生徒に言っていることがあります。
「妹や弟がいてもこの方法は教えないでね。教えたら絵には描きかたがあるんだと思ったらつまらないでしょ。ましてや楽しく描いているの時にそんなこと言われてもネ。まあ、高学年でどうしたらいいか相談されたら、それは別かもしれないけれど…」(子どもたちには児童画発達特性についても簡単に触れています。)
長々書いてしまいまいした。でもこの指導がこれでよしとは思っていません。なぜなら子どもが本気でそれを描きたいと強い意志をもったら、驚くほどの力を発揮しますから。そうなると教えるってどうなんだ?とも思うわけです。