描かされる絵ではなく、描く絵
2007年 10月 23日
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小学校で教育実習をしました。小学校なので全教科をやるわけですが、
その中でも、専門の図画工作(美術)で細案を書きました。
「6年生は学校を毎年描いているから、それで。」という一言を言われて書いた指導案です。
1時間目の授業です。
結局、実習の間に下がきまでを担当させていただきました。
実習を終える前に先生から、「自分の想い出を深く探したから、集中力が続いて、下書きがしっかり描けたのでしょうね。低学年はよくすることだけど、高学年はそこまでいつもはせずに、すぐに描き始めるけど、今回のを見て、高学年でも必要なんだなって思いました。」と言われました。
私も本当に驚きました。
この小学校の6学年は2組あります。私の担当は2組です。
1組は、そのまま場所を探させて、下書きを描いたようです。たまたま時間が空いて、1組の図工を見たとき、児童が飽きて、遊んでいる子もいました。鉛筆で書かせていたようで、線もしっかりしてませんでした。
でも、2組は、下書きをするときも全然(見ていないだけかもしれませんが)他の友だちとも話さずに、自分の世界に入ってじっくりかいていました。本当に驚きました。
しかも、画材のためか知りませんが、線がしっかりしていました。
さて彼の指導案から、
1.題材名
「想い出がいっぱい~私たちの学校~」
2.活動の目標
・これまでの学校生活を振り返り、自分の想い出の場所を見つける。
・新しい材料を主体的に選び、進んで造形的な試みをし、自分の思いを表現する。
・作品を進んで鑑賞し、よさや美しさ、想い出を共有することができる。
3.活動の内容と児童
(1)活動の内容
・残り半年となった小学校生活を振り返り、自分の想い出の場所を見つける。話し合いやワークシートに書き込むことで楽しかった気持ちや悲しかった気持ちを思い出し、発表する。その時の想いを大切にし、思い出の場所の構図を考えて、表現していく。
・これまで図画工作科で学んできた内容を活用しながら表現する。あわせて、新しい材料や表現方法を自ら選び、用いて表現をする。それぞれの学習を大切にし、新しい自分の表現を見つける。
・友達や学校生活の想い出を大切にしていく気持ちを改めて持ち、残りの学校生活を過ごすことができるようにする。完成した作品は文化祭で展示する。展示準備や文化祭当日にお互いの作品を鑑賞し、互いの作品を認め合い、想い出を共有する。
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彼のメールにこうありました。
「山崎先生もHPで書かれていましたが、「描きたい絵」というのを本当に私は目指したいと思いました。子どもたちが没頭して、自分の作品を作り出す。そんな経験を子どもたちにさせたいと思いました。」
本当にその通りです。例えば指導計画があって、「その題材をやることになっているから」というのも実は意外に多い気もします。例えば消防自動車、神社、校舎など…。
実はずっと以前小学校の先生からメールをいただき、以下のようなやりとりをしました。
2004年9月
小学校の先生からメールをいただきました。
内容は高学年で「神社の絵」を描く事になっているのだが、どう指導したらよいのかという問い合わせでした。
(学校のカリキュラムの中ですでに神社は決定しているとの事)
私は以下のようなアドバイスを自分なりにしてみました。
・本当はなぜ神社なのかという理由があっての授業なので、来年以降、学校で見直したらよいとアドバイスをしました。地域によっても神社と子どもの関わりも違いますし。
・神社の絵が一般化したのは造形的におもしろいこと、神社が子どもの遊び場であったこと(地域や時代で違いますが)、いわゆる「絵になる風景」などと言われること、複雑な形をしているので描き込みやすいこと、緻密な表現でコンクールでの入賞したものを目にする事、などが考えられます。しかし、今の子どもの生活と照らし合わせるとどうかという疑問が残ります.
神社を描く意味が子どもにとってどうかを吟味する必要があるのでは?本当にふさわしいかどうかは一考を要する。
・神社を描くのが決まっているので、その中でベターな方法として、子どもに神社に興味を持つような(描きたくなるような)話をしてみては?
・本気で考えてみて、神社を描かせる適切な理由が見当たらないなら、別に神社そのものを描く必要がないのではないか。神社の周辺にある木なども対象になるだろうし、神社の一部を描いてもいいのでは。子どもが興味を持った事をかけばよいとしては?
・以上を踏まえて、導入の語りかけを大事にしてください。
ただし山崎の考え方ですのでこれが正しいということではありませんので、あくまでも参考です。
返信が来ました。
その先生は神社へ出かけていって、神社の方に神社の歴史を聞いたそうです。(最高!)
ずいぶん前の建築で、社会科の授業とすこし関連するとのことでした。また狛犬があるのですが、50年以上前のもので、つがいになっていること。神社を守る役目なので、力強い形をしていたそうです。非常に古い木があって、木の歴史について解説がついていたことなどを発見。古いもののよさ、昔の人の暮らしと今の暮らしなど考えてみると、なんだか子ども達にぜひ描いてもらいたい気になったとのことでした。
こんな行動力を持ち自ら価値を探っていこうとする先生の姿勢に、自らよい授業をつくりたいという熱意を感じました。
その先生なりに題材設定の理由が見えて来たようでした。こんな感覚で導入時に語れば、ただ神社を描きましょうとか、神社を描く時のポイントだとかを話すより、子どもの絵に向かう気持ちは違ってくるでしょう。こうすれば感情移入しながら描く子どもも出てくると思います。
この絵の指導はもちろんこれが全てではありませんが、導入は子どもの描く意欲を引き出す上で、とてもとても大事だと思います。
描かされる絵ではなく、描く絵です。
「題材設定の理由」、これほど大事なものはありません。図工美術という教科が設定されている理由の各論が「題材設定の理由」ですから。
うーん、大学生のメールは頼もしいものでした。メールには「現場の先生から思いっきりやらせていただいたことへの感謝の気持ちや謙虚な気持ちも感じられました。教師をめざして頑張っている大学生、応援しています!
教師は経験があれば立派なのではないです。私も反省が多いです。
若いから、不十分ということもないでしょう。
うーん、ABEEY ROADをつくったBEATLESのメンバー当時20代の中頃でした。
http://iart.main.jp/index.html
そしてまさしく、いま小学校6年生の授業の共同研究を進めているところです。小学校の先生は図工の専門ではありません。でも学級経営のためになると感じています。
授業は子どもたちが自分の小学校の思い出の象徴となるようなモノを絵にするというものです。子どもたちは描きたいから描いていました。言われて描く絵とはあきらかに、違います。
サッカーのユニフォームを誇らしげに並べて描く子、本の表紙を描いている子、ミシンを描いている子、跳び箱を描いている子、実に様々でした。
http://iart.main.jp/cn04/pgcn0404.html
はじめましてさんが、これからされようとしている「6年間の思い出をしっかりと絵に表現させたいと思っています。」ということは、大賛成です。
子どもが本気でこう描きたいと思えば、授業は半分以上は成功したようなものです。子どもの側に立って、自分が描くならというつもりで考えてみてください。メールでもいただければ、ある程度のサポートも可能です。
このようなコメントは本当に参考になります。私も勉強になるのです。
読書感想画、子どもたちは本気で描きたいと思ったかどうか、描くことに子どもが価値を感じたかどうか、そこを考えて見てください。
それと「トントンギコギコ図工の時間」DVDをもし見れたらよいのですが…。
大事なものが見えてきます。
なお、「造形遊び」は、作品主義的な指導の反省もあってうまれてきたものです。
今年、ある展覧会で「子どもの手を借りた先生の絵」を見て、いくら作品がよく見えても、これではいけない!と思いました。
図工を通して何を育てたいか、はじめましてさん、子どもの思いを大事にてください。指導書も参考になります。
図工の何が大事かが実感できれば、本当に教師にとっても子どもにとっても楽しく、素敵な時間になります。
図工の指導はそんなに難しくはありません。でも確かに奥は深いです。学級経営にも必ず生きてきます!応援します!!!